牧太郎の青い空白い雲/949
大相撲が東京・蔵前国技館で行われていた頃(1984年秋場所を最後に両国国技館に移転)、毎夜〝取組〟を終えた力士たちが近くの「花柳界・柳橋」に〝もう一つのお仕事〟のためにやって来た。
実家の料亭「深川亭」では、お金持ち(例えば、大企業の2代目社長)がご贔屓(ひいき)の力士を呼んで宴会を開く。力士たちは日本酒を豪快に一気飲み。時に相撲甚句を歌ったりして......。ご祝儀を頂いて「ごっつぁんです」。かなりの臨時収入になる。たまには、対戦予定の力士同士が「同じお座敷」で楽しく酒を飲んだりして......。それを見た小学生の当方、複雑な思いだった。
世間では「大相撲には八百長がつきもの!」と噂(うわさ)していたが、小学生としては「真剣勝負!」を信じたい。でも......芸者さんのような人気力士の〝振る舞い〟を見せられると......大相撲はスポーツではなく、まるで「芸能」のように思えた。母親は「昔は、1年を20日で暮らすよい男、だって言われたけど、今は給料は安いし本場所以外に巡業もあるし、ケガしたらお終(しま)いだよ。上手に負けるのも芸の内」と笑っていた。
江戸時代の相撲は春と秋の2場所制。春秋の合計20日間、相撲を取れば楽に暮らしていけたけど......。現代は「1年6場所」。合計90日である。巡業もある。今年の春巡業は3月31日の三重県・伊勢神宮、4月1日の大阪府箕面市立第一総合運動場に始まって、同28日の埼玉県・深谷ビッグタートルまでほとんど休みなし。
かなり疲れる。もちろんケガ人も出る。5月場所は休場者が続出して「取組」はスカスカ。呼び出しが土俵に上がって「不戦勝」の垂れ幕を掲げても慣れっこになって、ブーイングすら起きない。
週刊誌が八百長騒動を報道したり、元関脇・貴闘力が「横綱含めほとんどの力士が八百長をやっていた」などと〝激白報道〟が出たりする。コトの真偽は不明だが、確かに言えるのは「ガチンコ」(真剣勝負)が増えた分だけ、ケガが増えたことだろう。
ともかく休場が増えて人気力士同士の「取組」が見られない。
NHK中継を見ている当方は甚だ不満だ。NHKは相撲協会に毎年30億円ほどの放映権料を支払っている。これすべて、我々の「受信料」である(相撲協会の事業収入は約60億円。その半分弱がNHKからの収入。NHKの受信料総計は約6800億円だから、その0・5%は相撲協会という計算になる)。
相撲協会は儲(もう)けている。でも、力士の身体的負担は増えるばかり。
正直言って「1年6場所」には無理がある!と思う。せめて、負傷休場した力士に対する「公傷制度」だけは復活しないと......。
もし、新しいスター「大の里」が大ケガをしたら......。それこそ横綱・大関はいなくなるぞ!
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある