牧太郎の青い空白い雲/948
日本で「一番長生きした政治家」は江戸初期、幕政に大きな影響力を発揮した「南光坊天海僧正」(1536〜1643年=推定)ではないか。
このお坊さん、幼い頃に天台宗の寺で得度。各地を遍歴して、ある時は故郷・会津を治めた「蘆名氏」に仕え、ある時は「武田信玄」に仕え、徳川家康の「北条攻め」にも参戦。以来、家康の参謀となって朝廷との交渉で大活躍した。
「黒衣の宰相」と呼ばれ、家康・秀忠・家光の徳川三代、政治・経済・宗教のあらゆる面で圧倒的な影響力を発揮した。焼失した比叡山の復興・再建。日光東照宮の造営なども手がけたが、驚くのは「年齢」である。
同じ頃、もう一人の徳川草創期の功労者「春日の局」が64歳で亡くなったのに、天海僧正は何と107歳まで生きたという。政治力の秘密は「長寿」だったかもしれない。もちろん、長生きすれば「ヘンな噂(うわさ)」も立つ。
天海僧正の場合は出生の秘密がある? というのも1582(天正10)年、京都の本能寺で織田信長を討った明智光秀はその後、秀吉との「山崎の戦い」で殺されたはずだが......。実は生き延びて「天海」になっていた!というのだ。
長生きすると「ヘンな噂」が付きものだ。
今、日本で一番長生きしそうな政治家は?
多分、「小池百合子」ではあるまいか。7月7日投開票の都知事選に3選を目指して無所属で立候補するらしい。女性に年齢のことを言ってはイケナイそうだが、そこそこ高齢である。3選を果たし、その後、総理大臣を目指したら......。それこそ「オンナ天海」である。
でも......。やはり気になるのは「ニセ学歴」問題である。小池さんの著書『3日でおぼえるアラビア語』(1983年刊)の著者略歴には〈カイロ大学文学部社会学科を日本人として2人目、女性では初めて、しかも首席で卒業〉とある。
これが真っ赤な嘘だ!というのだ。
当方、はっきり言って「学歴」なんて、あまり気にしない。
むしろ「学歴」で人間を区別するのは嫌だ。「学歴」を売りものにしていた「小池流」は大嫌いだが......、もし「ニセ学歴」の真実を知りたいのなら、記者会見で外国人記者にアラビア語で質問してもらえばよい。卒業証書なんて、あってもなくても真実の証明にはならない。いろいろ理由をつけ、ニセ証書を作ることもできるだろう。
問題は「実力」である。
もし本当に「3日でアラビア語が話せる」なら......。まして、カイロ大学を首席で卒業した小池さんなら......。外国人記者の発言をアラビア語で聞き、話すはず。
小池さんの「流暢(りゅうちょう)なアラビア語」を聞いたら、都民は安心して都知事選を迎えるだろう(笑)。
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある