牧太郎の青い空白い雲/940
『毎日新聞』の名物OB記者が作っている同人誌「ゆうLUCKペン」には、現役記者では書けないスクープ記事がいくつも登場する。
今年2月末、手元に届いた「第46集」の中で、一番〝勉強〟になったのは、本田克夫先輩の「21世紀の姨捨てを憂う 老人ホーム入居の記」。本田さんは97歳。新聞記事の「見出し」を作る整理記者一筋。1981(昭和56)年、繰り上げ定年された大先輩だ。
昨年の春、足腰が弱くなったこともあり「半世紀以上、住み慣れた自宅」を離れ、近くの「サービス付き高齢者向け住宅」(略称・サ高住)に移った。5階建てで入居者は約60人。夫婦部屋が53平方㍍、3食利用できる食堂と簡単な介護設備がある以外は一般の団地と変わらない。
入居した最初の1カ月、食事は「ご馳走(ちそう)」だった。ところが、物価高が報じられた昨年4月ごろ、肉や魚の動物性たんぱく質が質量とも少なくなり、月々の食費請求額が少しずつ値上がりした。(廊下の電灯料など)施設公益費は6月から一挙に月3000円も値上がりした。本田さんは「みみっちい話だが、老人にとって、値上げは恐ろしい」と書いているが、老人ホームにも「値上げの嵐」がやって来たのだ。老人ホームの費用はピンからキリまで。だから、何とも言えないが、本田さんのケースは家賃、食費が月20万円。水道、光熱費、医療費、小遣いに約5万円。年間300万円ぐらいかかる。
79歳の当方、今、本田さんのように施設に入居するとすれば、10年間で3000万円が必要だ。払えるだろうか?
もし、元気で90歳を超えたら、どうしよう? 金融庁が「老後資金は2000万円必要」と試算して話題になったが、2000万円で生き延びるのは不可能じゃないか?
本田さんは「悪い冗談のようだが」と断って、「石を投げれば80歳以上にあたる」と書いている。今、日本の人口の約10%が80歳以上。人生100年時代がやって来るのはいいけれど、その実態は「人口10%が老後破綻寸前」だ。
昨年2月、米『ニューヨーク・タイムズ』が30代後半の経済学者、成田悠輔さんの「言い分」を紹介して話題になった。曰(いわ)く―、
「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」
あまりに理不尽な発言。高齢者を切り捨てるということは、障害者や少数者をさっさと切り捨てること。とても賛成できないが......。もしかして、我々は「今日もカネがない高齢者が10人自殺!」なんてニュースを聞かされる予感も。
その昔、食糧難解消の「口減らし」で、老人を山に遺棄した「姥捨て伝説」を聞かされたことがあるが......。異常な物価高を見るたびに「令和の姥捨て」を想像してしまうのだ。