サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年3月17日号
燻り続ける「目白御殿」放火説の背景に「令和の角福戦争」が?
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牧太郎の青い空白い雲/937 

 いまだに「目白御殿(田中角栄邸)」放火説が燻(くすぶ)っている。 いまだに「目白御殿(田中角栄邸)」放火説が燻(くすぶ)っている。

 1月8日午後3時過ぎのことだ。東京都文京区目白台の田中角栄元首相の自宅だった「目白御殿」から出火。木造2階建て住宅約800平方㍍を全焼、敷地内の平屋住宅も一部焼けた。長女で元外相の田中真紀子さんと、夫で元防衛相の田中直紀さんは「平屋」のほうにいたが、避難して無事だった。

 警視庁の調べに、真紀子さんは「昼ごろ、仏壇のろうそくにマッチで火をつけ、線香2本を上げた」と説明。出火原因は「線香の火」とみられているが......。3月になっても「放火説」が流れている。 真紀子さんは「ろうそくの火は消したはず。窓ガラスが割れるような音がしたので、外を見たら煙が上がっていた」とも話している。そこで、「火炎瓶が投げ込まれた」「線香でここまでの火事にならない」という放火説がネットで蔓延(まんえん)。雑誌『紙の爆弾』3月号は、ある政治評論家が事情通の話として「右翼サイドが、田中邸にドローン攻撃を仕掛け、火災を起こしたと見ている」と紹介している。線香やタバコによる「無炎燃焼」はけっこうあるらしいが、もし放火だとすれば、なぜ「田中邸」が標的になったのか?

 それは「真紀子さんの痛烈な政権批判」にある!というのだ。

 昨年12月、真紀子さんは国会で記者会見した。自民党のパー券裏金騒動を取り上げ「(自民党は)〝賞味期限が切れた〟と言いますか、そういう人たちが総理になり、閣僚になり、議員になっている」と批判。岸田首相に対して「〝下手な手品使い〟だと私は思う」と一刀両断。真紀子さんにしてみれば、政治とカネはけしからん!と父の金権政治を批判したはずの福田(赳夫(たけお))派の流れの安倍派は「カネまみれ!」と言いたいのだろう。「安倍夫妻は国民の前でうそ発見器を置いて発言をすべきです」とまで言い放っていた。その真紀子節が気に入らない〝向き〟が「田中邸に火を付けた!」というのが、「放火説」のシナリオだ。

 1970年から(竹下内閣が誕生した)87年まで永田町は田中角栄と福田赳夫による激しい権力闘争の舞台だった。「角福戦争」だ。「(旧制高等)小学校卒」の田中、一方で一高→東大→大蔵省の福田。一種の〝階級闘争〟でもあったのだが、政策は正反対。財政では田中が日本列島改造論を掲げ、積極財政による高度経済成長路線の拡大を訴えた。福田は均衡財政志向の安定経済成長論。外交でも田中は親中派、台湾と断交してでも中華人民共和国との日中国交回復を急いだのに福田は親台派だった。

 この角福の「違い」は令和の時代に入って、さらに鮮明だ。特に中国と台湾との「付き合い」をどうするのか? 僕には、田中邸放火説に台湾有事に対する「令和の角福戦争」の影を感じてならない。

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◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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