サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2024年3月 3日号
税金で苦労した「美空ひばり母娘」は現ナマを「地下の瓶」に?
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牧太郎の青い空白い雲/935 

 女王・美空ひばりさんが母・喜美枝さんと〝二人三脚〟で活躍した、約40年前のことである。

 社会部記者だった小生、サンデー毎日編集部の依頼で、正月企画「長谷川一夫vs.美空ひばり」の夢の対談を実現した。芸能界に「知り合い」ができていた。「ゲラを見たい」と喜美枝さんが言うので、東京・目黒の「ひばり御殿」(現在は「美空ひばり記念館」)に持っていくと、大きな和室で「敷き布団」に座っていた喜美枝さんが「私がチェックします」と言う。

「今日、ひばりさんは?」と聞くと「誰にも言っちゃあダメよ。今夜はカネやんとデートなのよ」。

「カネやん」とは金田正一さん。日本プロ野球史上唯一の「通算400勝投手」である。ひばりさんと金田さんは「兄妹」というような間柄だったらしい。もう一つ「書かない」という約束で聞いたのは、「山口組三代目田岡一雄」さんのこと。田岡さんとひばりさんは「父娘(おやこ)」のような間柄だった。

 帰り際、喜美枝さんは子どもみたいな顔で「もう一つ、教えてあげようか? この布団の床下に穴を掘って大きな瓶(かめ)を入れてあるのよ」。

「............」

「すべて税金で持って行かれるから現ナマはここに隠しているのよ。アンタも、瓶にカネが貯(た)まるように頑張りなさいよ」と大笑いした。

 真相は分からない。が、ひばり母娘は「カネの出入り」で苦労していたのだろう。芸能界を生きるにはそれ相当の「お付き合い」が必要だった。

「ひばり御殿の現ナマ入りの瓶」を思い出したのは、例のパー券裏金騒動である。東京地検特捜部は、昨年11月、全国の検察からベテラン検事を20人ほど呼び寄せ、約60人の態勢で「パー券疑惑」を捜査した。大物政治家が逮捕されると見えたが、何のことはない。標的の「安倍派5人衆」はお咎(とが)めなし。それどころか「3000万円以下の裏金」は不問!という「悪(あ)しき前例」を作ってしまった。

 以前の特捜部は厳しかった。政治資金収支報告書にパーティー収入を記載せず、裏金としてポケットに入れていた薗浦(そのうら)健太郎衆院議員は、捜査を受けたことで自民党を離党して2022年に議員辞職。東京簡易裁判所は虚偽記載などの罪で、罰金100万円、公民権停止3年の略式命令を出した。

 だから、今回も大物議員が「お縄になる!」と思っていたが......。そうなると、自民党議員が列を作って記者会見をして「3000万円以下の裏金」を告白。「どんなお金かわからないので、事務所に置いていました」などと、いけしゃあしゃあとウソをつく。

 一般の市民が(もちろん、芸能人だって)「虚偽過少申告」したら立件されるのに。あの世で、検察の弱腰を聞いた「ひばり母娘」は瓶なんて必要なかったんだ!と笑っている(笑)。

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 ◇まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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