サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年12月31日号
戦争中でも「見よ東條の禿頭」と歌った日本人らしい批判精神を!
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牧太郎の青い空白い雲/929

 昭和12(1937)年といえば、かなりの大昔。第二次大戦のさなか、当時の近衛文麿首相が「国民精神総動員」なるものを発して「勇ましい国民歌」を公募した。

 その名も「愛国行進曲」。

【見よ東海の空明あけて 旭日(きょくじつ) 高く輝けば 天地の正気(せいき)潑溂(はつらつ)と 希望は躍る 大八洲(おおやしま)】。確かに勇ましい。「第二国歌」と言われ、国民は毎日のように歌った!と聞かされたが......。母親の記憶は大分違った。小学校では(実家の料亭「柳橋深川亭」のお座敷でも)「歌詞」が違った。【見よ東條の禿頭(はげあたま) ハエがとまればツルッと滑る 滑って止(とま)って また滑る】

 愉快な「替え歌」だった(「東條」とは東條英機。太平洋戦争開戦時の首相、陸軍大将)。

 戦争のさなかでも、庶民は批判精神を忘れなかった。3年後、政府は皇紀(神武天皇即位紀元)2600年を祝って国民歌「紀元二千六百年」を制作したのだが......。もちろん「替え歌」が生まれた。

【金鵄(きんし)輝く日本の 栄(はえ)ある光身にうけて いまこそ祝へこの朝(あした) 紀元は二千六百年 ああ一億の胸はなる】というところが【金鵄上がって十五銭 はえある光三十銭 いまこそきたるこの値上げ 紀元は二千六百年 ああ一億の民は泣く】

 何のことか分からないだろう。

 説明すると「金鵄」とは、『日本書紀』に登場する金色の鵄(とび)。神武天皇による日本建国を導いた「縁起の良い鳥」。ところが、替え歌の「金鵄」はたばこの銘柄。この「紙巻きたばこ」は「ゴールデンバット」と呼ばれたが、英語禁止で「金鵄」に変わっていた。この「金鵄」というたばこが値上げして15銭。「光」という銘柄は30銭。「替え歌」は値上げ、値上げの「ご時世」を嘆いているのだ。

 母親の話では憲兵も特高もこっそり、ある時には「おおらか」に〝値上げ反対〟を歌っていたらしい。表向き「替え歌」は禁止だが、取り締まることはなかったらしい。

 そんな「おおらかな日本国」で、窮屈な騒動が起こったのは4年前。2019年7月15日、JR札幌駅前などで応援演説をしていた当時の安倍首相に対して「安倍やめろ」「増税反対」などとヤジを飛ばした男女2人が警察官に肩や腕をつかまれて移動させられたのだ。この騒動は国家賠償請求訴訟に発展した。「批判」に蓋(ふた)をしようとする「権力者の狭量」か。

 日本は自由な国、言いたい放題の国で行こう!

 23年は「値上げの年」だった。円安もあって貧乏人が急増した。連日「値上げ反対」のデモが続いてもおかしくないのに、なぜか多くが黙っている。これでいいのか?「批判精神の衰退」を感じながら「年越し」を迎える。

 23年もご愛読、ありがとう。新年こそ「おおらか」なコラムを目指したい。

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