サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年12月24日号
日大アメフト〝廃部〟は江戸時代の「五人組」の復活じゃないか!
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牧太郎の青い空白い雲/928 

「商鞅(しょうおう)」という政治家をご存じだろうか?

 中国・戦国時代の前4世紀の中ごろ「衛」という小さい国に生まれた商鞅は大国「魏」に仕え、抜群な行政能力を発揮、その後、さらに大きな「秦」に亡命。「孝公」という王に仕え、前359年「商鞅の変法」と言われる改革を断行した。その狙いは、法治国家の建設と富国強兵の政治。「秦」はこの改革で、戦国末期に国力をめちゃくちゃ増強し、巨大王国になった。

「商鞅の変法」の中で最も有名なのは「什伍(じゅうご)の制」と呼ばる掟(おきて)だ。従来の血縁的な組織に代えて「5人を伍」「10家を什」と呼ばれる「共同体」を作り、住民に「連帯責任」を負わせたのだ。同時に一家に2人以上の男子がいれば必ず〝分家〟しなければならない!と命じ、自作農の増加を図った。多分、彼が作った「法令」がなくては「富国の道」は実現しなかった。

 この「商鞅の変法」を真似(まね)したのが豊臣秀吉である。1597年、京都で「5軒を一組」にするグループ制を誕生させた。農民同士に「見張り」を強制して共同責任を負わせる。江戸時代、もっと明確な「統制」として登場したのが「五人組」制度。5戸前後の家を組み合わせ「五人組」を設置。組内に年貢(ねんぐ)不納の者や欠落(かけおち)をする者が出ると「組」として弁済の責任を負う。

 五人組内に犯罪者がいるときは密告を強制され、知りながらそれを怠ると処罰された。「五人組」はキリシタン・浪人の取り締まりに有効だった。第二次世界大戦の最中も「相互観察」を強制。「連帯責任」を維持することで、泥沼の戦いに突入した。

 間違いなく、「連帯責任」精神は反民主主義の象徴だった。

終戦から80年近く。なぜか、多くの人が「個人」より「全体」を大事にするようになった。個人より家族、家族より地域、地域より学校、会社......。

 例えば、日本大学アメリカンフットボール部の廃部問題である。

 複数の部員が禁止薬物を使用、逮捕された事件で、大学は「連帯責任」で、アメフト部を廃部させる!と言い出した。メデイアの多くは「廃部は当然」という雰囲気だが、僕は「行き過ぎ!」と思う。

 教育機関が学生に「相互観察」を強要して、悪事が露見すると連帯責任」で廃部させる。これは「悪(あ)しき五人組」だ。

 あの商鞅は、時が移り孝公が亡くなり、その太子が即位すると反逆罪に問われ、都から逃亡する。

 一夜の宿を求めると、宿の主人は「商鞅様の掟では、通行手形を所持していない人間を泊めると罰せられる」と断られ、結局、捕まってしまう。この時、商鞅は「ああ、法令の害毒はなんとここまでひどいのか」と嘆いた。

 どんな時代でも、掟には「害毒」の一面があるのだ。

まき・たろう

 1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある

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