サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年11月19日号
猿之助「執行猶予判決」でウヤムヤになりそうな「性加害事件」
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牧太郎の青い空白い雲/924

 両親の自殺を手助けした歌舞伎俳優の市川猿之助(47)のスピード判決は11月17日。どうやら「執行猶予」になるのではないか。

 裁判にも、いわゆる「相場」があるからだ。検察には、犯罪ごとに事案概要と実際の求刑をリストアップした「処分参考例」という冊子が用意されている。この冊子を基準に、検察官は「求刑の大枠」を決め、事件ごとの「特殊事情」を踏まえて「量刑」を微調整する。

 検察庁は分業制。捜査と公判は別の検察官が担当するのだが、求刑を決めるのは公判担当の検察官ではなく、捜査担当の検察官。つまり、捜査・起訴した時点で「求刑」が決まっているともいえる。

 今回、捜査担当の検察官は、家族から殺すように依頼されて殺害した「嘱託殺人」ではなく「自殺ほう助の罪」で起訴した。

 しかも、求刑は懲役3年。求刑4年ではほとんど執行猶予は付かないが、求刑3年以下の場合は執行猶予が付く可能性が極めて高い。

 正直言えば、検察官が「執行猶予にしてもいいですよ」と言っているようなものだ。

 猿之助は起訴内容を認め「申し訳ないことをした。後悔でいっぱい」と話しているので「懲役3年、執行猶予4年が相場」といった感じだ。

 4年経(た)てば、猿之助は舞台に復帰するだろう。なにしろ、チケットが足りなくなるほど「圧倒的な集客力」を持つ役者だ。歌舞伎界にとっては「執行猶予はありがたい判決」なのだ。しかし、忘れてはいけないことがある。例の「性加害問題」である。

 猿之助一家心中の引き金になったのは『女性セブン』(今年6月1日号)の「歌舞伎激震の性被害!市川猿之助濃厚セクハラ」という告発記事だ。その記事には劇場関係者のこんな証言を掲載している。

「猿之助さんの舞台に立った経験を持つある役者は、猿之助さんとの〝関係性〟にかなり苦悩していました。たとえば、地方興行などの際、頻繁に猿之助さんのホテルの部屋に誘われ、お酒につきあわされていた。そればかりか〝隣に寝なさい〟と指示され、横になると布団の中に潜り込んできて、キスをされたり、身体を弄(もてあそ)ばれたりと過剰な性的スキンシップをされるというのです」

 師匠と弟子、座長と役者・裏方の関係は絶対。性被害に悩んだ役者はがまんするしかない!と耐えた。不同意の性行為は被害者の心身に甚大な影響を与え、この卑劣な性暴力は「魂の殺人」とまで言われている。事実、この種の性暴力の被害で、精神科から「うつ病と複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と診断された人も多い。これは「犯罪」だろう。旧ジャニーズ事務所は「経営者の性加害事件」で事実上崩壊したが、歌舞伎の世界は「猿之助のもう一つの問題」をどうするのだろうか?

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