牧太郎の青い空白い雲/914
中古車販売大手「ビッグモーター」が行っていた不正な保険金請求「騒動」。
お客さんが持ち込んだ故障車両に「ドライバーで傷つける」「サンドペーパーで塗装をはがす」......。この種の修理には「若干の水増し」が存在する!と聞かされていたが......。「ゴルフボールを入れた靴下を振り回して叩(たた)く」なんてあまりに悪質だ。この会社では、社員らが朝礼で「誰にも負けない努力をする」「売り上げを最大限に、経費は最小限」と唱和しているらしい。
ここで社員に求められる〝努力〟とは......。即売り上げアップ? 「カネ儲(もう)け」がすべてに優先される。
あの「知床遊覧船沈没事故」を思い出してしまった。
昨年4月23日、北海道斜里町の知床半島西海岸沖で観光船「KAZU(カズ) Ⅰ(ワン)」が消息を絶ち、乗員・乗客合わせて26人が死亡・行方不明になった。当日、斜里町には午前3時9分に強風注意報、同9時42分に波浪注意報。多くの漁船が引き上げた頃、「KAZU Ⅰ」の船長は別の観光船運行会社の従業員から「今日は海に出るのをやめておいた方がいい」と忠告を受けた。にもかかわらず「営業」を強行した。
なぜ、この遊覧船だけが営業を続けたのか?
関係者はそろって「社長の勘違い」を指摘した。社長は有名百貨店で個展を行うほどの陶芸家。ホテル経営も始めたが、右も左もわからないド素人。そこで、ある有名な経営コンサルタントに「アドバイス」を求めた。このコンサルタント氏は観光船が売り出された時「値切ってはダメ! 言い値で買え」と指導。何かにつけて「経営多角化路線」を〝指導〟した。
ところが、コロナ禍もあって収益が悪化。社長はコストカットの必要に迫られ、ベテラン船長たちを次々に解雇。そして「素人の船長」が売り上げ欲しさに大惨事を起こした。
背景には「無理なコストカット」があったのだ。
実は、保険金水増し請求のビッグモーターも、同じコンサルタント氏の「指導」を受けている。
確かに「儲かる仕組み」の指南を受けた750社の企業のうち、400社以上が過去最高益を達成!とコンサルタント氏が言ったと報じられたが......。場合によっては「無理な経営術」ではなかったか?
ビッグモーターの経営者は拝金主義者なんだろう。
金銭を「無上のもの」として崇拝する。だから「売り上げ」がすべて。「守銭奴」と言われても、「カネの亡者」と言われても「カネ、カネ、カネ」の人はいる。
でも、あの世へは「カネ」を持っていけない。
コンサルタント氏は「カネの亡者主義」にも限界があることを教えるべきである。