サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年7月16日号
作家・瀬戸内寂聴の「愛」は許され、女優・広末涼子の「愛」は...
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牧太郎の青い空白い雲/910

 小説『J』(延江浩)が話題だ。

 数々の話題作を世に問うたベストセラー作家で尼僧のJと、IT企業を経営する男の「恋物語」だ。二人が出会ったのはJが85歳。青年は37歳。小説の宣伝文には【老いてこそ身体(からだ)も心も業火のごとく 燃える愛の軌跡。かつてない〈老いの自由〉を描き切った痛切な純愛小説!】とある。

 要するに「老いらくの恋」である。

「老いらくの恋」は、昭和23(1948)年、68歳の歌人・川田順が弟子と恋愛、家出して「墓場に近き老いらくの、恋は怖るる何ものもなし」と詠んだことから流行語になった言葉。小説『J』は、2人が京都「嵯峨野の庵(いおり)」で結ばれ、肉体関係を続けた4年間あまりの出来事。多分、この「老いらくの恋」は最高齢の日本新記録ではあるまいか?

 作家Jのモデルは実在するのか?

 2021年、99歳で大往生を遂げた瀬戸内寂聴さんではないか。男女の性愛を真正面から描き、500冊近い作品を世に送り出してきた寂聴さん。小説『J』の最後に「参考文献」として、彼女の作品が列挙されているから間違いないだろう。

 実際、寂聴さんは恋多き女性だった。20歳で結婚するが、教師だった夫の「教え子」と不倫関係になった。これを皮切りに、当たるを幸い?「好きな男」と肉体関係を持ち、赤裸々に「男と女の性愛」を描き続けた。お相手には「妻ある人気作家」もいた。

「男女の性愛」に生きた寂聴さん。多くのファンにとって「不倫」は許される行為だった。

 ところで昨今。不倫は悪――とみなされている。

 人気フレンチレストランのオーナーシェフ、鳥羽周作さん(45)と「ダブル不倫」関係になった女優・広末涼子さん(42)は、日本中を敵に回してしまった。

 女優として無期限謹慎処分。テレビから彼女が出演するCMも消えた。仕事もなくなった。関係者によると「広末さんクラスのCM契約金は1本3000万円くらい。契約内容次第だが、彼女は億単位の損害賠償を支払うことになるかもしれない」と言うのだ。

 主演映画も中止になったら......。気の毒である。「不倫」は刑事責任を問われる犯罪ではないのに。

 腹立たしいのは、女性ファッション誌『STORY』(光文社)が、一昨年から開始した広末さんの連載エッセー「毎日が3兄弟ママで、女優。」を休止したことである。

 出版社は多かれ少なかれ、寂聴さんの小説「不倫モノ」で稼いでいたのに......。広末さんは「ちょっとした浮気」で言論の自由を奪われる。

 代償があまりに厳しすぎる。

 あえて言う。「不倫」は犯罪ではない。このままでは、日本は「自由がない国」になってしまう。

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