サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年6月25日号
猿之助事件で浮上した「自殺は善か悪か?」論争が発展すると...
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牧太郎の青い空白い雲/908

 最近「556」で終わる電話番号を覚えてしまった。

「日本いのちの電話連盟」とか、厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」とか......。「猿之助〝一家心中〟事件」を扱ったテレビ番組や週刊誌の記事の終わりに、末尾「556」(ココロ)の電話番号が登場することが多い。悩みごとがあったら、この番号に電話して相談しましょう! 国もメディアも揃(そろ)って「自殺防止」に躍起だ。

 確かに「人間家業」をやっていると、「生きることの辛(つら)さ」に苦しむ。僕も30年ほど前、脳卒中で倒れ半身不随になった時、病院の窓から飛び降りようと思った。

 自分が自殺をしたら、親や子どもはどう思うか? そう考えて思いとどまったが......。「死の誘惑」はどこにでも転がっている。

 自殺は善か悪か?

 多分、国も多くのメディアも、自己中心的な自殺は悪!と考えているのだろう。

 しかし今回の事件で、猿之助は警察の聴取に〈私たち親子は仏教の天台宗の敬虔(けいけん)な信徒で、死に対する恐怖はありません。自死が悪いことだとは考えていません。私たちは輪廻(りんね)転生を信じています。生まれ変わりはある、と本気で考えています〉と話したという。

 もし、猿之助の言い分が正しければ、宗教的に「自殺は善!」ということになる。

 両親と心中した猿之助には「自殺幇助(ほうじょ)」の疑いなどがかかっているが、その死生観からみると無罪!ということになる。

 時に「宗教の教え」と「法」は微妙に、時には決定的に違うのだ。

 政治の世界では、この「違い」はさらに微妙である。

 憲法20条は、ある特定の宗教を擁護したり、国民に強制するようなことを禁じている。「政教分離」の原則である。その一方、憲法は「信教の自由」「言論の自由」「結社の自由」を保障している。

 宗教団体・創価学会と公明党との関係はまさに「微妙」だ。公明党は結党時(1964年11月17日)、日蓮上人の言葉を引用し「公明党は王仏冥合、仏法民主主義を基本理念とし日本の政界を根本的に浄化する」と宣言した。当時、信者の多くは日蓮正宗(しょうしゅう)を広く国民に流布させ、日蓮正宗を国教化しよう!と願ったのだろう。だから政党を作った。

 日蓮の「政教一致」が正しいのか? 憲法がいう「政教分離」が正しいのか? 創価学会の人々は悩んだろう。そして、公明党は(一応「政教分離」を認めながら)権力闘争の狭間(はざま)を泳ぎ、自民党と連立政権を作り「権力」を握った。

 お見事!ではあるが、このところ自民党と公明党の関係がギクシャクし始め、何やら「政教分離」論争が再現しそうな気配。「法」と「宗教の教え」の関係は曖昧にするのが得策かもしれないが......。

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