牧太郎の青い空白い雲/903
「カジノ」なるものを初めて見たのは、多分1980年代前半の頃。政治記者時代、当時の安倍晋太郎外相に同行、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領との日韓会談を取材するためソウルに行った時である。宿泊したホテルの最上階にカジノがあり、外務省の職員に誘われ恐る恐る覗(のぞ)いてみたら......。閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。
当時から「日本にもカジノがあったら経済効果が期待できる!」との意見もあったが、外国人観光客で韓国カジノはいっぱい!との話は「聞くと見るとは大違い」だった。
ただ現在も、韓国で1カ所だけ大繁盛しているカジノが存在する。
江原(カンウォン)ランドにはゴルフ場、スキー場、展示場、会議場などが揃(そろ)っていて、日本政府が今目指しているIR(統合型リゾート)のお手本のような場所。7000人収容のカジノがある。実は、ここだけが韓国で唯一、自国民が入ることができるカジノなのだ。
この街に行けば、異常な光景に遭遇する。街には質屋が並んでいる。人々は乗ってきた車や時計を質に入れて賭け金に換え、安宿に泊まり込んで連日、カジノに通う。純粋の外国人旅行者なんていない。
博打(ばくち)というものは「胴元」だけが儲(もう)けるのだから、人々はいつか「文無し」になる。家庭崩壊、破産、自殺......。カジノ地獄である。
このあたりは、かつて炭鉱の町。90年代の廃鉱で追い詰められ、地域再生戦略としてカジノ誘致を決めたのだが、どうやらこの計画は裏目に出てしまったように見える。
さて、統一地方選の前半戦で、大阪維新の会が大阪府知事と大阪市長のダブル選挙に圧勝。「この機」を逃さず、政府は「維新」が推進してくれる「大阪・夢洲(ゆめしま)地区特定複合観光施設区域整備計画」なるものを認定した。大阪にカジノが生まれるのだ。
はっきり言わせてもらうが、日本にカジノは必要はない。競馬、競輪、競艇、オート、それにパチンコまである日本はもともと「世界最悪のギャンブル依存症大国」。厚労省研究班の推定で約320万人が「博打病」になっている。
こんな中で、なぜカジノが必要なのか?
安倍晋三元首相は同盟国アメリカにトランプ政権が生まれた時、ウン十万円のゴルフ用品を手土産に、ニューヨークの金満ビルを訪ねたのだが、その時トランプ大統領は「カジノの規制緩和が必要だ」と〝感想〟を述べた。トランプ氏は元々カジノの経営者。トランプによる、トランプのためのカジノ合法化?だった。
冷静に考えてくれ! わざわざ日本にカジノをしに来る外国人はいない(カジノは約140カ国で設置されている)。となれば、夢洲カジノは「自国民が利用する博打場」になるだろう。
それでいいのか?