サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年3月12日号
鞍馬天狗もいいけれど、そろそろ「覆面」とオサラバしようゼ!
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牧太郎の青い空白い雲/895

「ルフィ」と名乗る特殊詐欺グループのボス・渡辺優樹容疑者がフィリピンから日本に護送される「いでたち」を見て、「何かに似ている」と思った。初めは分からなかった。

 幅広のマスク、黒いフード......。「黒色の防弾チョッキ」らしき物まで着ている。悪党どもが親分を奪還しにやって来たら何が起こってもおかしくない。そこまで考えて......。アレは(小学生の頃、夢中になった)鞍馬天狗(くらまてんぐ)だ!と気づいた。

 アラカンこと嵐寛寿郎が演じる「黒頭巾の鞍馬天狗」はいつも正義の味方。普段は「倉田典膳(くらたてんぜん)」を名乗っているが、実は天狗党の生き残り? 一刀流の凄腕(すごうで)で、時には短筒(たんづつ)も使う。

 時は幕末。勤王志士でありながら、幕府寄りのテロ集団「新選組」の近藤勇(いさみ)とも付き合っていた「謎の人物」。ともかく、天狗は強い。カッコいい。天狗を小父(おじ)さんと慕う少年「角兵衛獅子(かくべえじし)の杉作(すぎさく)」のファンにもなった(映画で美空ひばりが演じたのを覚えている)。昭和20〜30年の「テレビがない」時代。映画の「鞍馬天狗」は日本中の子どもたちの人気者だった。

 覆面のヒーローが「悪」を懲らしめるストーリーはテレビ時代になっても「月光仮面」や「仮面ライダー」に受け継がれた。日本人は「覆面」が好きなのだ。

 江戸時代、特に寛保年間(1741〜44)、顔を隠す「頭巾」が大流行した。考案者は「池上本門寺」(日蓮宗の大本山)の順光和尚。僧侶には女犯(にょぼん)が禁じられていたので、和尚は品川の遊女の元に通うため、日蓮上人の被(かぶ)り物からヒントを得て「覆面頭巾」を作った。この頃、幕府は遊興禁止令を出していたので、芝居見物や遊郭遊びで、顔が隠せる「覆面頭巾」は好都合。丸形、角形、袖形、風呂敷形......。形も幾つもあって、時代劇に登場する女性専用の「御高祖頭巾(おこそずきん)」などは大ヒット。昭和の戦時中、これをヒントに綿(わた)を厚く入れた「防空頭巾」が広く使われた。

「覆面」は何度かブームになったが、この3年、日本人はコロナ禍で「マスク」という名の「覆面」を使い続けた。マスクは大嫌いだ。呼吸が苦しい。眼鏡が曇る。顔の半分以上が見えないマスク生活で、相手の「表情」が分からない。対人関係も微妙に変わった。

 政府は「3月13日から原則、屋内・屋外を問わず個人の判断に委ねる」と決定した。「お上」の決定で、マスク着用見直しが決まるのは複雑な気分だが、これでやっと「脱マスク」が実現する。それでも女房は「死ぬまでマスク」。まあ、その判断は各々の勝手ではあるが......。この際、日本人はいっせいにマスクという「覆面」をやめたら、どうだろうか?

 コロナ感染予防も必要だが、顔を隠さない「嘘のない対人関係」はもっと大事だ。世の中「鞍馬天狗」や「月光仮面」は一人でいいんだから(笑)。

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