サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年2月 5日号
NHK党にまで2億6200万円。甘ったれるな「政党交付金」
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牧太郎の青い空白い雲/891

 安倍晋三元首相銃撃事件から約半年。安倍さんの側近だった自民党参院議員・井上義行さんが『朝日新聞』(1月11日電子版)の取材に応じ、狙撃犯・山上徹也被告に「甘ったれるな」と言い放った。

 あえて言う必要もないが、山上被告の犯行は100%許されない。

 でも気になるのは、井上さんが言う「甘ったれるな」とは、どういう意味なのだろうか? 「甘ったれる」とは、普通「可愛がってもらおうとして、ひどく甘える」こと。

 井上さんは「私は大根1本で1週間暮らしてきた経験があります」と話しているから、「経済的な苦しみ」に耐えられなかった山上被告を「甘ったれ!」と批判しているのだろう。確かに、井上さんは苦労人。市営住宅で生まれ育ち、どちらかという貧乏な家庭? 高校を卒業すると、国鉄に機関士として就職して、働きながら日本大経済学部通信教育課程を卒業した。ご苦労が分かる。

 でも、井上さんと山上被告の境遇はだいぶ違う。山上被告は裕福な家庭。年の近い兄と妹と家族5人で暮らしていたが、彼が4歳の時、父親が自殺。それを機に母親は新興宗教に夢中になり、旧統一教会に莫大(ばくだい)な献金を繰り返す。兄も自殺。1億円以上の「馬鹿(ばか)げた献金」で、家はめちゃくちゃになった。

 前回の参院選で(旧統一教会の支援を受けて?)当選した井上さん。カルトの被害者になった山上被告。2人は「月とスッポン」。比べ物にならないほど違う。井上さんの言い分はどう見ても「上から目線」じゃないか? 言いたかないが、政治家の方こそ「甘ったれて」いる。その最たるものが「政党交付金」という代物だ。

 企業・労働組合・団体などからの政治献金を制限する代償として、政党に配られるカネ。国民1人あたり年間250円となる約315億円。昨年の各政党交付金総額は自民党159億8200万円、立憲民主党67億9200万円......。小さなNHK党も2億6200万円ももらう(共産党は政党交付金の制度に反対。交付金を受け取っていない)。

 そのNHK党は昨年の参議選で全45の選挙区に73人、比例区に9人が立候補。投開票の結果、YouTuberの東谷義和(ガーシー)さんが比例区で当選。選挙区得票率が2・0%、比例区得票率が2・4%だったことで、公職選挙法上の政党要件を満たし、莫大な交付金を手にした。そのガーシーさんは当選後もドバイに滞在。「日本に帰れば逮捕される」という理由で、1日も登院していない(警視庁は暴力行為等処罰法違反や名誉毀損容疑などで、ガーシーさんの関係先を家宅捜索している)。

 そんな政党にまで億単位のカネを配る「交付金制度」。しかも、大政党は交付金をもらって、事実上、企業献金も「もらい放題」。

「甘ったれ」ているのは政治家だ!

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