サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年1月29日号
「お坊ちゃま首相秘書官」は国民の知る権利を守っている!
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牧太郎の青い空白い雲/890

「オボッチャマ」という競走馬がいる。

 2020年4月23日、北海道・新ひだか町の千代田牧場で生まれた牡の2歳馬。昨年8月、デビュー。最近ではクリスマスの12月25日、未勝利戦で4着だった。血統が良い!というわけではない。馬主が知り合いというわけでもない。ただ「オボッチャマ」という名前が妙に気に入って(1着馬を当てる)単勝馬券をほんの少し買っている。オボッチャマは3戦して一度だけ3着に入り、獲得賞金は258万円。結構、稼いでいる(当方の馬券のほうは全て外れてマイナス3000円)。

 実は「赤ん坊」「暴れん坊」のような「坊」が入った言葉が好きだ。「お坊ちゃま」は親しみがあって親友の倅(せがれ)を冗談半分で「お坊ちゃま」と呼んだりしている。

 でも世の中、この言葉を「悪意」たっぷりに使う向きもある。

 正月、後輩記者から「お坊ちゃま首相秘書官」のことを聞かされた。昨年10月4日、岸田首相の政務担当の首相秘書官だった山本高義さんが古巣の岸田事務所に戻り、代わって首相の長男・翔太郎さんが同秘書官に就任した。政務担当の秘書官は通例で「首席秘書官」とも呼ばれ、首相の国会議員秘書として長年仕えてきた人物が選ばれる(官僚や政策ブレーン、いわゆる「番記者」などが秘書官になるケースもある)。

 岸田さんの場合は今回、「長年仕えてきた苦労人」から「お坊ちゃま」に代えたのだ。理由は分からない。その昔、福田赳夫首相は長男・康夫さんを秘書官に、康夫さんが首相になると、長男・達夫さんを秘書官にしている。今回も「後継者育成」という意味合いが大きいのだろう。

 ところが、評判がよろしくない。

 会員制月刊誌『FACTA』が「『官邸極秘情報ダダ漏れ』情報源は首相長男・岸田翔太郎氏か」と報じた。記事によると、某民放キー局が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との「深い関係」を批判された山際前経済再生担当相の「辞任!」をいち早くスクープ。一握りのメンバーしか知らない「最重要情報」を誰が漏らしたか? 記事は「お坊ちゃま」が特定の女性記者に意識的にリークした!と報じたのだ。

 後輩記者は「お坊ちゃま秘書官には困ったものです」と話したが......。果たして、そうだろうか?

 政治記者にとって「首相秘書官」は最大の取材先。かつて中曽根康弘首相の番記者だった当方、連日連夜、上和田義彦秘書官を追いかけた(大スクープは貰(もら)えなかったが、勉強になった)。ド素人!と言っては失礼だが、翔太郎秘書官は「正直に、丁寧に取材に応じた」だけではないか? 良くも悪くも、国民が永田町の真実を知るためには「お坊ちゃま的正義」が必要だ。

 競走馬「オボッチャマ」を応援する気分で、若き秘書官に注目している。

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