サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2023年1月 1日号
中国のスパイ組織「秘密警察署」が日本の主権を侵害する?
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牧太郎の青い空白い雲/888

 仕事場から歩いて行ける東京・秋葉原の電気街。2021年より師走の人出は確実に多い。コロナ禍とは無関係?の若者たちは「行動規制ゼロ」を楽しんでいるが、「噂(うわさ)のビル」を探し当てた僕は約50年前の大事件を思い出していた。

 1973年8月8日の昼過ぎ、韓国の民主活動家(後に大統領になった)金大中(キム・デジュン)が、何者かに東京都千代田区のホテルから拉致された。当時、僕は警視庁担当の事件記者。何が起こったのか?まるで分からず、この日から夏休みで東北地方に旅行する予定だったのに......。「休み返上だ。ホテルに行け!」と言われ、ただ腹を立てていた。

 金大中は5日後にソウル市内の自宅前で発見されたのだが......。事件の真相は?

 金大中は71年の大統領選挙に立候補。当時の現職大統領・朴正煕(パク・チョンヒ)に挑み、97万票差で惜敗した。それでも朴陣営は「反政府の動き」に危機感を覚え、大統領選直後、韓国中央情報部(KCIA)を使い、交通事故を装って金大中を暗殺しようとした。金大中は腰と股関節に障害を負った。そんな中、73年7月、彼は講演するため東京を訪問。「国に帰れば殺される!」と判断して、日本人の偽名を使って「地下」に隠れていた。

 運命の日。「ホテルグランドパレス」に宿泊していた「韓国政界の大物」と会談、部屋から出たところを数人の男に襲われ、クロロホルムを嗅がされ自動車で関西のアジトに。その後、工作船で神戸港から「出国」させられた。

 スパイ映画のような犯行に及んだのは当時の韓国政府とKCIA。韓国の公権力が「日本の主権」を侵害したのだ。

 日本の捜査当局は拉致事件に在日韓国大使館の1等書記官が関与していたことを突き止めたが、事件発生後から3カ月後、日韓両国は首脳会談で「真相解明を棚上げにする」ことで政治的決着を図った。「捜査員のご苦労」を知っていたので、この決着は到底理解できなかった。

 秋葉原の「噂のビル」の前に立って、金大中事件を思い出したのは、このビルの中に、中国の「秘密警察署」なる組織がある!と聞いたからだ。中国の「秘密警察署」とは、海外に居住する自国民を監視し、必要に応じて本国に送還する目的で数年前に設立された組織。CNNの報道では「53カ国に102カ所」もあるらしい。

 日本にも、あのKCIAのような「闇のスパイ組織」がある!

 2022年、中国各地では「白紙革命」が広がった。白い紙などを掲げて、言論統制・検閲に対して抗議する活動。

 23年、中国の反政府運動が過熱すると......。日本も「第二の金大中事件」に巻き込まれるかもしれない。

「複雑な年の瀬」ではあるが......。皆さん、良いお年を!

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