サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年12月 4日号
ミサイル発射!核シェルターに逃げ込める日本人は2万数千人?
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牧太郎の青い空白い雲/885

 当方、昭和19(1944)年生まれの78歳。「戦中生まれ」と言われるが、第二次大戦の記憶はまるでない。

 7歳年上の妻は実家(埼玉県熊谷市)の急きょつくった庭の「防空壕(ごう)」に何度か潜った記憶がある。死者10万人以上の東京大空襲(昭和20年3月10日)の時、「東京の空が真っ赤に燃えていた」のを鮮明に覚えているという。

 だから、Jアラート(全国瞬時警報システム)が鳴った時、二人の「反応」は微妙に違った。緊張感ゼロの当方と違って、妻は「北朝鮮のミサイルが日本に向かう光景」を想像した。「いざとなったら、どこに行けばいいの? 防空壕はあるの?」と聞かれ困ってしまった。

「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)は、「都道府県知事は一定の基準を満たす避難施設を指定しなければならない」と規定している。

 そこで、小中学校や公民館など約9万カ所が「避難施設」になっているが、そのうち「爆風等からの直接の被害を軽減するのに有効だとされているコンクリート造りの施設」は約5万カ所。地下施設はたった663カ所である。

 東京の場合、都営地下鉄と東京メトロの駅105カ所が指定されているから「一番近い浅草橋の地下鉄の駅に行くんだな」と答えると、「大丈夫なの?」。確かに、地下鉄の路線は地下二十数㍍。核弾頭が直撃すればひとたまりもない。

 専門家によると「核シェルターに逃げ込める日本人はせいぜい2万数千人」。東京ドームの収容人数にも及ばない。ともかく、日本は「シェルター後進国」である。

 人口あたりの核シェルター普及率を調べてみるとスイス、イスラエルが100%。スイスには約30万の核シェルターが個人の家などにあり、約860万人が避難できる。というのも、1962年の米ソ冷戦下のキューバ危機で「全戸に核シェルター設置を義務付ける連邦法」を成立させたからだ。もちろん、大国も準備している。アメリカが普及率82%。ロシアが78%。イギリスは67%......。

 で、日本は? 何と0・02%だ。

「防衛費倍増」を主張する政府自民党は核シェルターにほとんど無関心。その理由は、核シェルターの所管官庁が「防衛省」ではなく、「総務省消防庁」だからだ。「火消し」の役所に「予算獲得が得意の○○族議員」がいない。

「今も昔も、政治家は国民を守ろう!という意識が薄いんだ」と話すと、妻は「だったら、個人用シェルターを買ったら」。確かに、特殊空気ろ過機設置の「厚さ30㌢以上の放射線遮蔽(しゃへい)コンクリート」を使う「個人用シェルター」が発売されているらしいが......。我が家にそんな経済的な余裕はない。

 二人の一致した意見は「どうせ、いつかは死ぬんだから」。

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