サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年11月20日号
食糧危機に無防備な日本人は孫に「サツマイモ生活」を強いる?
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牧太郎の青い空白い雲/884

 10月1日、スーパーマーケットの客は、6000点を超える食料品の価格が一晩で値上がりしたのに驚いたろう。それから約1カ月。食料品の価格高騰はさらに深刻だ(一部に「値下げ」もあるが)。

 78歳の当方、思わず2〜3歳の頃、サツマイモばかり食べさせられたことを思い出した。終戦直後の食糧難。朝鮮や台湾からのコメの輸入はなくなり、時に政府の倉庫(東京・深川)には都民の3日分のコメしかなかった。米、麦、イモ......。多くの食料は政府の管理下に置かれ、お袋(母)は〈配給通帳〉という回数券みたいなものと引き換えに(政府から)「食べ物」を買った。もちろん、東京・柳橋で料亭を営んでいた実家は当分休業だった。

 ひょっとすると、再び日本に「食糧危機」がやって来るのではあるまいか? そんな気がしてならないのだ。

 たとえば大豆である。今年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻する前から、中国は大豆の「爆買い」を始めていた。中国の大豆輸入量は約1億200万㌧。それに比べ、国内で消費する大豆のほぼ全量を輸入に頼る日本は約300万㌧。それさえ中国に奪われようとしている。大豆だけではない。中国の食糧輸入量が増えれば、小麦もトウモロコシも日本には入ってこなくなる。

 はっきり言って、日本と中国では購買力がケタ違い。食糧調達で「買い負け」状態にある日本は「世界のどこからでも、好きなモノを好きな価格で買える」という状況ではなくなったのだ。

 しかも、である。

 最近は干ばつ、豪雨......。気候変動が激しい。今年は欧米の穀倉地帯を熱波が襲った。そして穀物の輸出大国、ロシアとウクライナの戦争は長引くだろう。もし、中国・台湾の緊張が高まり台湾海峡で軍事衝突が起これば、重要な輸送ルートが寸断され、日本の食糧輸入は壊滅的打撃を受けるだろう。

 まさか?と思うが、そうなれば小麦も牛肉もチーズも輸入できないなんてことになる。輸入穀物に依存する「畜産」もほぼ壊滅するだろう。我々は生き延びるため、最低限のカロリーを摂取するため、終戦後の「サツマイモ生活」に戻るしかなくなるかもしれない。

 日本の食糧安全保障は、とっくに破綻しているのだ。イギリスも、フランスも、ドイツも先進国は(原則として)食糧は「自給」できる。ところが日本は? 米国農務省は「2023年以降、我が国は穀物輸入国になる!」と言っている。輸出大国の同盟国が輸入国に変わるのだ。

 ジワッジワッと、世界に食糧危機がやって来る。というのに、インチキ宗教の話に夢中になっていて良いのか? 孫の世代に「サツマイモ生活」をさせて良いのか?

 超不安である。

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