サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年11月 6日号
満足に歩けない78歳が「孤独のグルメ」で味わう幸せ!
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牧太郎の青い空白い雲/882

 恥ずかしいが「78歳の老人」になっても、時々「一人で暮らしたい!」と思ったりする。家族に不満があるわけではない。もちろん、離婚したい!とは思っていない。

 脳卒中の後遺症で満足に歩けないから、家族の介護が必要。一緒に生活してくれるだけで感謝しなければならないのだが、何となく「一人」に憧れる。「孤高に、自由に生きたらカッコいいじゃないか?」なんて......。なぜ、こんな理不尽なことを考えるようになったか、と恥ずかしい。

 どうやら、その原因はテレビ東京の「孤独のグルメ」にあるのかもしれない。「ドラマ」というべきか「ドキュメンタリー」というべきか、ともかく奇妙な番組だ。

 簡単に紹介すると......。個人で輸入雑貨商を営む「井之頭五郎」という人物が、仕事の合間に「街の飲食店」に立ち寄り、美味(うま)そうに食事をする!というだけの話。でも、これがめちゃくちゃ面白い。

 松重豊演じる主人公はいつも背広姿。家に居る時でもネクタイを外さないダサい中年男だが、「守るものが増えると人生が重たくなる」と判断。だから、結婚もしなければ就職もしない。自分の「店」も持たない(この番組の大ファンの知人によると「東京都江東区の砂町銀座商店街に近い場所に新しい事務所を構えている」という説もあるらしいが)。

 家族構成は不明。ただ、①父親は他界②離婚して出戻った姉がおり、その姉の子・太(ふとし)はエースで4番の高校球児......。ということは分かっているが、特定の恋人はいない(「小雪(さゆき)」という名の女優と交際したことはあるらしい)。

 劇的な展開は全くない。ただ食べるだけ。でも、めちゃくちゃ面白い。彼が注文する料理は(高級店でなく)実在する大衆食堂。実在する「変わった料理」。それがめちゃくちゃ美味い。

 当方が感激した料理を紹介しよう。シーズン3の第1話に登場した「北区赤羽のほろほろ鳥とうな丼」。昭和の風情が残る赤羽商店街の外れのある「酒と食事処」。主人公は「ほろほろ鳥(珠鶏)」のバラ串(300円)を注文する。「ほろほろ鳥」なんて食べたことはないが、主人公の口元の動きで「美味」がよく分かる(ほろほろ鳥はタレより塩?)。酒が進む。

「鰻(うなぎ)のオムレツ」も始めて見た。もちろん、主人公は注文する。最後は「鰻丼(うなどん)」1900円。何となく「お重」より「丼もの」が似合う。満腹。満腹。感動した。

 ともかく、主人公は当たるを幸い、何でも食べる。「孤独」だから(カネを全て食費に回せるから)何でも食べられる?

 ああ、俺も「孤独のグルメ」をしたい!

 この番組、2012年スタート。10年も続く。10月7日深夜から「シーズン10」。いつまで続くのだろう。毎週金曜、家族が寝た後の「深夜0時12分」から78歳の老人は「孤独のグルメ」に没頭する。

 エッ、貴方(あなた)も?

 ひょっとすると「孤独のグルメ」は隠れた国民的番組じゃないか!

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