サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年9月 4日号
岸田内閣が「安倍国葬」を強行すれば、上皇ご夫妻はどうする?
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牧太郎の青い空白い雲/875

 吉田茂元首相以来、戦後2例目となる安倍晋三元首相の国葬が行われるようだが......。今からでも遅くない! 「中止」すべきだ。

 反社会的(宗教?)団体とされる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との「付き合い」を理由に、閣僚の入れ替えを断行した岸田内閣が、「最も深い関係」にある安倍さんを国葬で送るのはあまりに矛盾している。

 今回の参院選で、旧統一教会の関連団体が安倍さんの元秘書官・井上義行参院議員(旧統一教会の賛同会員)を応援したと報じられている。前回(2019年)の8万7946票だった「井上票」は今回、16万5062票に急増。その差、7万7116票。旧統一教会の信者は約10万人と言われている。

 旧統一教会と誰よりも深い関係にあった政治家は間違いなく安倍さんだっただろう。

 このまま「安倍国葬」を断行すれば、岸田さんは「(トランプ前米大統領と同じように)カルト教団の言いなり」になってしまう。

 現在、日本には国葬を定めた法律はない(1947年12月31日、国葬令は廃止された)。国が国民に弔意を強要することは「思想・良心の自由」の侵害にあたる。

 岸田さんは、安倍さんを国葬する理由として「日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開、東日本大震災からの復興」などを挙げているけど、そんなことはどうでも良い。僕が反対するのは「安倍政治は嘘(うそ)八百」だったからだ。「嘘つきは泥棒の始まり」の〝掟〟を知らなかった人である。

 今一番、気になるのは上皇さまの「お立場」である。

「改憲」に夢中だった安倍さんは「護憲」の上皇(平成の天皇陛下)を無視。一方、上皇は「健康でなければ国民と共に歩む天皇は務まらない」と思い「生前退位の意向」を発表。その決断に安倍さんの周辺では「天皇は祈っているだけでよい」などという声も。

 そりが合わない。

 上皇は天皇に即位されたとき、即位礼正殿の儀で「日本国憲法を順守し、日本国及び日本国民統合の象徴としての務めを果たすことを誓う」と述べられた。今上天皇の即位時も同じ。天皇家は憲法を大事にしている。美智子上皇后は、明治初期に農民や市民によって書かれた「五日市憲法草案」を「世界でも珍しい文化遺産」と評価した。

 決定的な「意見の相違」を隠し、上皇は「安倍国葬」に参列しなければならないのか?

 多くの国民は複雑な思いである。

 米国では大統領経験者が亡くなると「国葬」が行われる。リンカーン大統領が1865年に暗殺されたのを機に国葬が始まったらしい。フランクリン・ルーズベルト大統領は「国葬」を拒否(45年死去)。ニューディール政策で米経済を世界恐慌のどん底から回復させ、第二次世界大戦に勝利を目前にした彼は生前、「俺には国葬が似合わない」と言い続けた。

 もし、岸田さんが「国葬中止」を決断できなければ、混乱を避けるため安倍家が「国葬」を辞退したらどうだろうか。

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