サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年8月 7日号
もう一つのテロ「安倍宅火炎瓶投げつけ事件」をどう見るか?
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牧太郎の青い空白い雲/872

 実は、安倍元首相銃撃事件が起こった瞬間、「右翼でも、左翼でもない。ヤクザの仕業ではないか?」と疑った。

 あの「安倍晋三宅火炎瓶事件」を思い出したからである。

 2000年6月から8月にかけ、山口県下関市の安倍さんの自宅や地元事務所に5回にわたり火炎瓶が投げ込まれた。その中には安倍事務所の入居する建物と誤認して、約400㍍も離れた5階建て結婚式場の窓ガラスが壊された騒動もあったが、その犯行時刻は6月14日午前3時13分。安倍さんが第42回衆議院議員総選挙に立候補を届け出た翌日のことだ。

 2回目の「襲撃」(6月17日午前3時ごろ)は安倍さん宅の倉庫兼車庫。乗用車3台が全半焼。福岡、山口両県警は合同捜査本部を設置。約3年の捜査で03年11月、6人が非現住建造物等放火未遂などの容疑で逮捕された。

 逮捕されたのは指定暴力団工藤会系高野組の親分と組員(当時)、それに極めて親しい「土地ブローカー」。その動機は......。1999年の下関市長選挙に絡む金銭トラブル。安倍さんの秘書がその土地ブローカーに安倍派に反対する候補者に対する中傷文書を広く配れ!と指令。ブローカーはその「闇の仕事」を果たしたのに「約束の報酬」500万円を300万円に値切られ、腹を立てたブローカーは親しい高野組に火炎瓶投げ入れを依頼したという。

 まるで、ヤクザ映画を見るような展開ではないか? 安倍さんは「事務所がやったこと」との立場だが、本当に「美しい国」を目指しているのか、不安になった。

 この事件の裁判。福岡地裁は「人への被害もありえた危険な犯行で、金銭のため放火するという動機も身勝手」などと述べ、犯行を指示した組長に懲役20年、襲撃依頼のブローカーに懲役13年を言い渡した(福岡高裁の控訴審も同じ判決)。量刑は重いのか、軽いのか? 意見は分かれると思うが、その筋の人たちは「殺したわけではないのに20年は重い。実力政治家を敵に回したので重くなった」と思っているらしい。もしかして安倍暗殺は「火炎瓶事件」関係者が狙ったのでは?と思ったりした。

 工藤会といえば、福岡県を拠点として九州や山口県西部に勢力を持つ大組織。地元安倍事務所がその実態を知らないハズがない。その工藤会の「フロント企業」(暴力団周辺者が資金獲得、つまり「シノギ」のために経営する企業)とかかわりがあった安倍事務所。

 選挙のため、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連団体に「応援メッセージ」を送り、広告塔になってしまった安倍さん。それがキッカケで殺されてしまった。亡くなった安倍さんを批判するつもりはないが、「火炎瓶投げつけ」と「安倍銃撃」の二つの事件には同じような「政治家さんの自分勝手」が隠されているようだ。

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