サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年6月19日号
次々に兵士が戦死してロシアは「超資本主義」の泥沼に陥った
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牧太郎の青い空白い雲/867

 資本主義とは、すべてを商品化していく「市場システム」。どんな商品で誰が儲(もう)けるのかという価値観がすべてを支配する。

 例えば、競馬の賞金である。

 日本の場合、賞金の配分比率は馬主に80%、調教師に10%、騎手に5%、厩務(きゅうむ)員に5%。最近行われた日本ダービーの1着賞金は2億円。馬主には1億6000万円、調教師には2000万円、騎手・厩務員には1000万円が配分される。

 要するに、競走馬を所有し、厩舎に預け、それ相応の資本を提供している「馬主」がまず儲け、次に厩舎を経営する調教師が儲ける。厩舎に所属する技術者である騎手、厩務員も儲ける。

 ところが、この「儲け組」から弾(はじ)き出された人もいる。例えば、毎朝、競走馬に騎乗している調教助手という「お仕事」には、未勝利戦でも、ダービーのような大レースでも「調教助手賞500円」が支給されるだけ。ちょっぴり気の毒な気がする。

 資本主義は、「格差」を生む「矛盾」に満ち満ちたシステムである。だからと言って、資本主義と反対する社会主義、共産主義、経済的国家主義(経済的ナショナリズム)、国家社会主義(ナチズム)、結束主義(ファシズム)などの「体制」が人々を豊かにしている?とは言えない。

 社会主義とも共産主義とも、だいぶ違う(「プーチン主義」の)ロシアはウクライナ侵攻以後、経済的に行き詰まった。

 ロシア人の平均月給は約5・7万㍔。概(おおむ)ね11万円。平時であっても「豊か」とは言いかねる。

 今、話題はロシア兵士の「稼ぎ」である。

 ロシア軍の約70%は契約軍人。彼らの月給は6・2万㍔(約14万円)。ロシア人の平均月給より若干高めだが最近、首都モスクワから南に200㌔ほど離れたトゥーラ地区で、3カ月の兵役契約に署名した新兵に月17万㍔(約35万円)が支払われたという。破格である。

 ウクライナ戦争で、ロシア軍の兵士2万人以上が戦死したとの情報がある。英国防省は「ロシア軍が2月開戦以降に投入した地上戦力の3分の1を失った」と発表した。

 ロシアは慢性的な兵士不足なのだろう。

 一部では「月給30万ルーブル(約67万円)の兵士」の話まで出ているらしい。戦時のロシアは社会主義でも共産主義でもない「超資本主義」に突入しているのだ。

 傭兵(ようへい)を増員しても間に合わなくなれば、北朝鮮やベラルーシに人的支援を求めるか? それとも、ユナルミヤ(全国軍事愛国社会運動協会)に所属する17〜18歳の団員を少年兵として招集するのか?

 プーチンのロシアは今、人間を「戦時商品化」する超資本主義の泥沼に陥っている。

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