牧太郎の青い空白い雲/862
日本の山岳遭難史上最悪とされる「八甲田山・死の行進」が起こったのは120年も前のことだ。
1902(明治35)年1月23日早朝、陸軍青森歩兵第5連隊の210人は青森市の兵営を出発。同行する軍医が天候不良を理由に何度も「中止」を進言したが、将校の間で結論が出ず、猛吹雪の中、やむなく「行軍」を続行して、199人の若者が歴史的大寒波の前で死亡した。
当時、日清戦争に勝利した日本は、新たにロシアを「仮想敵国」として戦争への備えを急いでいた。
陸奥湾が封鎖され、ロシア軍が青森県八戸付近に上陸した!と想定して、八戸方面への行軍と物資輸送が可能なのか?それを確かめるための「八甲田越え」だった。
事実、二年後の1904年2月、日本とロシアは朝鮮半島と南満州(中国東北)の支配をめぐって戦争状態に入っている。
その「日露戦争」から約120年。第二次大戦終結から77年。日本がロシアと戦争する!なんて誰も思わないが、ウクライナ侵攻後、雲行きが怪しくなった。
日本がロシアに対する制裁措置を次々に打ち出す中、ロシアの中道左派の野党「公正ロシア」の党首セルゲイ・ミロノフ氏が「日本はロシアに対して、繰り返しクリル諸島(北方領土と千島列島)に関する主張を繰り返してきたが、一部の専門家によると、北海道の全権はロシアにある」と言い出したのだ。
「公正ロシア」は2021年の下院選で27議席を獲得。与党の統一ロシア、野党の共産党に次ぐ第3党。一定の発言権を持っているらしい(ミロノフ氏は下院の副議長)。
ロシアの学者の一部が、以前から「東京(日本政府)は歴史的にロシア領であった北海道を不適切に保持している」と主張しているのも事実だ。
今、北海道周辺は緊張が高まっている。ロシアはカムチャツカ半島の太平洋艦隊潜水艦基地ルィバチに、核兵器を積んだ弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を配備。オホーツク海を潜航し、日本列島の近くを行き来している。まさか、ロシアが日本を敵に回すとは思わないが......気になるのはプーチン大統領が「帝政ロシアの皇帝アレクサンドル3世の大ファン」であることだ。
父帝が暗殺されて即位した、この「反動的な王様」の記念像をプーチン大統領は2014年、ウクライナから軍事力で奪ったクリミア半島に建立している。
アレクサンドル3世は常々「ロシアは敵国やわれわれを憎んでいる国に包囲されている。われわれには友人も同盟国も必要ない。最良の同盟国でも裏切るからだ。ロシアには信頼できる同盟者はロシアの陸軍と海軍だけである」と言い続けていた。
まさか!とは思うが、今や、反動皇帝プーチンのロシアは何をするか分からない。