サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年4月24日号
強すぎる大阪桐蔭の「愛校心」と山東参院議長の危うい「愛国心」
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牧太郎の青い空白い雲/861

 今年のセンバツ(高校野球)は面白くなかった。

 大阪桐蔭が強くて強くて――。準々決勝は市和歌山(和歌山)を相手に17―0。準決勝では13―4で国学院久我山(東京)を、決勝では近江(滋賀)を18―1で降した。圧勝!と言うべきか? 大勝! と言うべきか? ともかく「相手」にならなかった。

 これで、大阪桐蔭は春夏合わせた日本一が9度目。センバツの優勝で、昨秋の大阪大会から負けなしの20連勝である。

 なぜ、こんなに強いのか? 秘密がある。この高校では全国から「優秀な中学生」を集めているからだ。某君は千葉の京葉ボーイズ出身。大阪桐蔭から西武に入団した仲三河優太は栃木の小山ボーイズ出身。「選手集め」のアンテナは全国に張り巡らされ、最近は「大阪」という名の高校なのに「関東生まれの子」にまで手を伸ばしている。母校のために「優秀な選手」をスカウトする気持ち、分からないではないが、このまま「大阪桐蔭の1強時代」が続くと、高校野球は間違いなく、つまらなくなってしまう。

「愛校心」とでも言えばよいのか? 母校を有名にしたい一心のスカウト合戦。「行き過ぎ」のように思えてならない。「愛すること」にも限界というものがある。

 プーチンが起こした戦争の最中、ウクライナのゼレンスキー大統領が日本でオンライン国会演説をした。一方の当事者だけを招いて「演説」を聞くのはいかがなものか?と心配していたが、ゼレンスキー大統領は「復興」「故郷」「津波」「サリン」など日本人に刺さる言葉を使って上手に話した。大統領が日本に軍事支援を求めなかったのは、戦力不保持などを定めた憲法9条に配慮したからだろう。ひとまず安心した。

 ところが、である。演説を聞いた山東昭子参院議長が突如、立ち上がり「(ゼレンスキー)閣下が先頭に立ち、貴国の人々が命をもかえりみず祖国のために戦っている姿を拝見し、その勇気に感動している」などと芝居がかった様子で挨拶(あいさつ)した。

 祖国のために命懸けで戦っている勇気に感動?「愛国心」をくすぐったつもりらしいが、はっきり言って、これは行き過ぎだ。

 愛国とは「故郷を懐かしむ心情」である。誰でも「愛国心」を持ち合わせている。しかし、祖国に対する「愛着心」と、国家に対する「忠誠心」は違う。中世の封建制では、兵士の自己犠牲は君主に捧(ささ)げられるものとされていた。愛国心=自己犠牲!だった。

 現代でも、ロシアとウクライナの戦いで、多くの人が「祖国のために」死んでいる。殺されている。

 山東議長が大袈裟(おおげさ)に感動してみせたその戦争行為は「愛国心」という名の大量殺人である。

「国を守れ」「国家の名誉を守れ」と勇ましく主張するのは、少なくても平和主義の日本の国会議員がすることでは断じてない。

 国会議員が守るのは、「国家の名誉」なのか? それとも、国民一人ひとりの命なのか。我々は冷静に冷静に考えるべきだ。

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