牧太郎の青い空白い雲/857
ウクライナ侵攻以来、プーチン大統領はほとんど「狂気」である。
欧州最大の原発を砲撃した「狂気の沙汰」に、西側は経済封鎖で対抗する。ロシア中央銀行は約73兆円の外貨準備を持っていたが、そのうち(人民元を除く)60兆円分の取引が制限され、ロシアの主要銀行は国際決済取引網である「SWIFT」から締め出された。
流石(さすが)にプーチンもこれには困った。ロシア各地の銀行やATMに市民が殺到。通貨ルーブルの信用不安で預金を引き出そうと躍起。事実、ルーブルは2月28日の為替市場で約3割も暴落。1㌦=119ルーブルをつけた。
事実上「取り付け騒ぎ」(bank run)である。
バブル崩壊の1997年11月17日、北海道拓殖銀行が「破綻」を発表。預金の払い戻しを受けるため顧客が列を作り、北海道警察が本・支店を取り囲んだことを思い出した。
この「bank run」に対応して、プーチンは政策金利を9・5%から20%へ大幅利上げに踏み切る。取りあえず、1ドル=90ルーブル台まで持ち直した。
2倍以上の大幅利上げは「冷静な判断」なのか?「狂気の沙汰」なのか? ともかく、想定外のことが次々に起こる。
しかし、この騒ぎを冷静に分析すると、我々日本人はロシアより「恥ずかしい現実」に気づく。「日本円」の体たらくである。
3月初め、為替レートは1ドル=115円あたりを推移している。日本は「先進国」ぶっているが、なんのことはない、日本円の通貨価値は〝取り付け騒ぎ〟発生中のロシアの通貨ルーブルよりも安いのだ。
1ドル=79円台まで円高が進んだ1995年のことを思い出してくれ。我々は日本円で「海外の貴重なモノ」を買いまくった。「買う力」は世界で一番!だった。
国際決済銀行(BIS)が毎月公表している「実質実効為替レート」と呼ばれる指標がある。約60カ国・地域の通貨を比較し、各国の物価水準なども考慮して総合的な通貨の実力を示す数値。低いほど、海外からモノを買う際の割高感が高まる。この指標をみると、日本円はコロナ騒動以前は70以上だったが、海外で景気回復への期待が先行して円安基調。昨年秋には67・79にまで下落している(円高が最高に進んだ95年4月は150・85)。
ニューヨークに旅行した知人が「ラーメンが1杯2000円に驚いた」というが、海外に行けば「日本円の弱さ」が身に染みる。
円安に加え、今回のウクライナ侵攻で、輸入に頼る原油や食材がかなり値上がりするだろう。
で、我々、日本人の暮らしは?
我々は「経済制裁で暴落したルーブルよりも、今の日本円の価値の方が低い!」という「狂気の沙汰」に気づくべきだ。