牧太郎の青い空白い雲/855
何かにつけて忘れる。
「健忘は歳だと言うが昔から」......という〝川柳〟を教えてもらったこともあるけど、日本人は〝病気〟のように「大事なこと」を忘れる。
だから、北京五輪が(それなりに)盛り上がった頃、あえて半年前の「東京五輪」のことを忘れないために必死で思い出してみた。
コロナ禍の昨年夏。東京五輪の強行開催で、医療従事者に多大な負担がかかり、多くの感染者が必要な医療を受けられず自宅に放置され、亡くなった方も出た。
数々の「不祥事」も忘れた。IOC総会での安倍晋三首相(当時)の「アンダーコントロール」発言は真っ赤な噓(うそ)。「票集め」のための約2億円の賄賂疑惑。「7月の東京は温暖!」という虚偽報告。エンブレムの盗作問題や、新国立競技場周辺住民の強制立ち退き騒ぎも......。
「コンパクト五輪」「アスリートファースト」「復興五輪」というスローガンも忘れてもよいのだが、忘れられない大赤字は残った。
組織委員会が発表した経費総額の見通しは当初、1兆4530億円だったが、現実には2兆5000億円ぐらい使った。が、これも忘れた。
まあ、良くも悪くも日本人は「忘れる美徳」を持ち合わせているのだろう。
多分、その「美徳」を狙ってか、北京五輪終了の時期を選んで2030年冬季五輪・パラリンピック招致を目指す札幌市が北海道民を対象に、3月上旬から「招致の是非」を問うアンケートを取る!と言い出した。
北京冬季五輪のドラマに酔い、東京五輪の大失敗をすっかり忘れた頃、世論調査で「道民は大賛成」を印象づける作戦なのだ。
これには「裏」がある。
札幌五輪の賛否を日本国民に聞かず、道民だけを対象にする。しかも、市はアンケート結果を「参考資料」と位置付け、「反対」が多くても招致継続・撤回は判断しない!というのだ。反対が多くても、誘致活動は続くのだ。
どこか、おかしい。
なぜ、コロナ不況で世界中が「貧乏」に苦しんでいるのに、3000億円を投じて札幌五輪を強行する必要があるのか?
当方から見れば、五輪は「裕福で権力のある人たち」のお遊び!にしか見えない。
事実、26年冬季大会では、カナダのカルガリー、スイスのシオン、オーストリアのインスブルックが住民投票で反対多数のため撤退している。
もっと忘れてならないことがある。
地球温暖化である。人工的に雪を降らせることはできるが、自然と闘う冬季五輪の本来の目的がアヤフヤになる「歴史的転換点」が近づいているのだ。