サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2022年1月16日号
大相撲「遠藤」は日大精神「立志尚特異」の教えに忠実だった?
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牧太郎の青い空白い雲/847

 年末、大好きな「八海山」を飲みすぎて「日大騒動で男を上げたのは遠藤だ!」と喚(わめ)いたらしい。

 前理事長の田中英壽(ひでとし)さんが巨額脱税の疑いで逮捕・起訴された事件。日大卒業生には甚だ迷惑な騒動だが、大相撲の遠藤もその一人だ。

 後援会「藤の会」会長でもある田中夫妻から「嫁さん候補を紹介する。披露宴も俺が仕切る」と言われ、ある有名な企業人のお嬢さんを紹介されたが、遠藤はそれに逆らい、他の一般女性と「極秘結婚」した。

 結婚を発表しなかった理由は「俺は芸能人じゃないから結婚を公表することはない」。それに「金集めの披露宴はしたくない」という気持ち?もあったのだろう。いかにも遠藤らしい。

 入籍の1カ月前に、遠藤は田中さんの奥さんが経営する「ちゃんこ料理屋」で、ごく簡単に報告したが、田中夫妻はこれに激怒。本場所ごとに行われていた後援会の激励パーティーも結婚以降、なくなった。遠藤は「カネまみれの理事長と距離を取りたかった」のかもしれない。

 それが......今回の巨額脱税事件。図らずも「田中金権支配」と距離を置く「技能派力士」の判断に軍配が上がった形だ。お見事!である。

 実は、当方、日大には縁がある。日大一中、一高の卒業。(大学は新聞記者になりたくて早稲田の新聞学科に進んだが)日大が大好きで、倅(せがれ)の一人が日大卒。孫の一人が在学中。正月の箱根駅伝では、早稲田より日大を応援してしまう。

 今回の日大騒動。メディアの一部が「日大はカネまみれの最悪な教育機関!」と烙印(らくいん)を押そうとしているが、日大は「日本で最高」とは言わないが「日本最大」の教育機関だ。(正確な数字は分からないが)卒業生総数約120万人。公務員の数は日本一。所謂「社長」の数も日本一である(約2万人。上場企業に限定した場合は第5位だけれど)。

 日大一高の時代に学んだことだが、日大には「立志尚特異」という〝教え〟がある。

 安政5年(1858)の春、日大の創設者、山田市之允(いちのじょう)(山田顕義(あきよし))が松下村塾に入り、元服を迎えた時(当時15歳)、恩師・吉田松陰が彼に宛て、扇に「立志尚特異」という文句で始まる漢詩を書いてくれた。

「立志尚特異」とは「志を立てるためには人と異なることを恐れてはならない」という意味。

 この詩を貰(もら)った山田顕義は幕末から明治にかけ、西郷隆盛に「用兵の天才」と恐れられた逸材だが、岩倉使節団の一員として欧米諸国を訪れた時、ナポレオン法典と出会い「軍事より法律!」と気づき、軍事の実権を山縣有朋(やまがたありとも)(首相)に譲り、自身は司法と教育に転じた。

 日大は今回の騒動を機に大きく生まれ変わるだろう。変わってほしい。

 「立志尚特異」の日大精神で、行こうじゃないか!

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