牧太郎の青い空白い雲/841
「死ぬなら今」という落語がある。
アコギな商売で大儲(おおもう)けした船場(せんば)の大店(おおだな)、赤螺屋吝兵衛(あかにしやけちべえ)は「極楽に行きたい!」と思い、地獄の閻魔(えんま)大王にワイロを贈る。これがニセ金だったので奉行所は特別機動隊を地獄へ派遣、キタのキャッチバー「血の池」で鬼たちとドンチャン騒ぎをしていた閻魔大王以下、地獄のスタッフを全員逮捕。「監獄行き」にした。
という次第で、地獄は休業状態。極楽に行くためには「死ぬなら今」......。
この珍しい噺(はなし)を得意にしていた四代目三木助は前座時代、師匠・小さんの家に昼過ぎに車で乗り付ける重役出勤? 修行らしきことはせず「宇宙人」と言われたが、真打ち襲名後、芸術祭演芸部門優秀賞を受賞するなど大活躍した。
ところが、2001年1月3日、自宅で首を吊(つ)っている姿が発見された。遺書には「自分でも整理がつかないと同時に私の力のなさを痛感する」と書かれていた。
自殺の理由は本人しか分からない。本人だって分からない。
『週刊文春』で「今年10月6日早朝、大阪市内のマンションから、朝日新聞の33歳の記者が飛び降りた」というニースを知った。
若い、有能な新聞記者がなぜ自殺したのか?
もちろん、その理由は誰にも分からないが、直前の「ツイッター」が気になった。
「重要な事実を探るために、権力者に近づくことはありますし必要です。ですが、なぜその記事をのせるのか、読者に堂々と説明できる論理がなにより大事だと思う」
「紙面に意図的にのせて、権力者のご機嫌を取ってもたらされる情報って、本当に読者が求めているものなのかな。トモダチだから書くってなったら、政権を『オトモダチ人事だ』って批判できなくなるのでは」
甚だ勝手な想像だが、彼は上司から「書きたくない記事」を強要されたのではあるまいか?
メディアの世界では、どこにでも転がっている話?だが、彼は許せなかったのだろう。
僕も「自殺してやろうか?」と思ったことがある。
2019年10月から導入された「軽減税率」で新聞が食料品と同じ8%とされた時「これはおかしい!」と書いたら、上司から「これは掲載できない!」と言われた。腹が立った。許せない!と思った。
でも、「新聞社といえども経営を最優先に考え〝正義〟を我慢することもあるだろう」と思うことにした。
若き記者さんに言いたい。死んだらお仕舞いだ。「死ぬなら今」なんてことはないんだぞ!