サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2021年8月29日号
天下国家よりアンタと朝寝! 都々逸は「同調圧力」に負けない?
loading...

牧太郎の青い空白い雲/828

 東京は隅田川沿いの花街・柳橋の生まれなので「都々逸」と一緒に育った。

 実家の料亭「深川亭」では、毎晩、お座敷から三味線の音と共に「三千世界の 鴉(からす)を殺し ぬしと朝寝(添い寝)がしてみたい」という名作?が聞こえてきた。

 都々逸は、江戸末期に都々逸坊扇歌という人が完成させた七・七・七・五の定型詩。川柳のようなものだが「節」がつく。

 子供の頃には「分かりづらい文句」が多くて「三千世界って何?」と母に聞くと「宇宙のことだよ。詳しいことは桂小五郎さんに聞いておくれ!」。

 当地では、この不朽の名作は大久保利通、西郷隆盛とともに「明治維新三傑」と言われた木戸孝允(つまり桂小五郎)が作った!と信じられていた(高杉晋作が作った!という説もある)。ともかく天下国家より「アンタと朝寝!」。嬉(うれ)しいじゃないか。

 もう一つ、「都々逸は野暮(やぼ)でもやりくりや上手 今朝も七つ屋でほめられた」もよく分からない。

 「七つ屋って何?」と聞けば「そんなことも知らないのか? カネがなくなると、お武家様だって質屋に刀を預けたもんだ」

 「七」が「質」と同じ音だから「七つ屋」は質屋のこと。勉強になった。

 タウン誌『月刊浅草』(1970年4月創刊。題字は作家・川端康成)が一般から都々逸の作品を募集していることを知った。

 7月号の「秀逸」は「しばらく会わない いつもの仲間 も少し我慢の 夏になる」(台東区・長嶋春義さん)

 確かにコロナ騒動で我慢、我慢、我慢の毎日だ。

 江戸っ子の当方、「お国のために東京五輪? 冗談じゃねェ! それより川開きが先だ!」と言ったら「気をつけてものを言え!」と言われた。

 両国の川開きは、コレラの流行で多くの死者が出た時代、八代将軍・徳川吉宗が死者の霊を弔うために、享保18年(1733年)5月28日に花火を打ち上げたのが始まり。1978年に隅田川花火大会と名前を変え、上流に移ったが、それまでは実家の前の大川端が打ち上げ場所だった。

 母方の祖父「牧文次郎」は東京・日本橋「洋書の丸屋善七店」(通称・丸善)の番頭だった。後に家業の料亭「深川亭」を継ぎ、「柳橋料亭組合」の組合長として「川開き」運営に尽力した。

 東京の夏は「隅田川の花火」である。

 コロナ騒動で「同調圧力」とかいう自粛警察の面々から怒られそうだが、桂小五郎の都々逸ではないが、非常時であればあるほど「天下国家より個人の喜び」じゃないのか?

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム