サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2021年8月15日号
「ヒトラーは正しい」の副総理は許され「元お笑い芸人」は?
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牧太郎の青い空白い雲/827

 日本中がメダルラッシュに酔いしれているのに、些(いささ)か古い話で恐縮だが、五輪開幕前日、開会式の演出をしていた元お笑い芸人の小林賢太郎さんが「過去にユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をコントの題材にしていた!」という理由で解任された。

 国際オリンピック委員会(IOC)の五輪憲章は、あらゆる差別を禁止している。「ホロコーストは欧米で最もセンシティブな問題だから」という理由だが......そのコントを読んでみると「ホロコーストは許されない出来事」という視点を踏まえて〝お笑い〟を取ろうとした。「下手くそな芸」ではあるが、それほど目くじらを立てるようなことなのか?

 第一、昔の話じゃないか。

 コロナ騒動が長引き、外に出られない。親しい仲間と酒も飲めない。それどころか、多くの人が職を失った。みんなイライラしている。

 ちょっと前までは〝酷(ひど)い言動〟に出合っても「表現の自由があるから文句は言えない」と多くの人が我慢していたが、最近は、むしろ他者の言動を堂々と批判し、弾劾する。そして許さない。不寛容な時代になってしまった。

「過去の過ち」を突然、指摘され、職を奪われるケースまである。五輪関係では「人気タレントの容姿を侮辱する演出を提案した人」「同級生をいじめていた!と発言した楽曲担当の人」が辞任に追い込まれた。

 少数意見かもしれないが、僕は不寛容な時代だからこそ「表現の自由」を守りたい!と思っている。

「表現の自由」とは、他者の権力に従わない状態、他者の強制的干渉がない状態......を意味する。が、同時に「他者の干渉が物理的に存在しない範囲」を規定しておく必要もあるだろう。

「表現の自由」は消極的権利? どこまでが「自由」の範疇(はんちゅう)なのか?は難しい。

 ただ言えることは「表現の不平等」が現実に放置されている事実である。

 2017年8月、麻生太郎副総理兼財務相が派閥の研修会で「(政治家は)結果が大事なんですよ。何百万人殺しちゃったヒトラーは、やっぱりいくら動機が正しくてもダメなんですよ、それじゃあ」と言い放った。

 ヒトラーの動機は正しかった?麻生さんはヒトラーを肯定しているように思えるのだが?

 副総理なら許され、元お笑い芸人・小林賢太郎さんの場合は即刻解任!

 どう見ても「不平等」ではあるまいか?

 麻生さんの問題発言を蒸し返すつもりはないが「表現の平等」こそ守りたい!

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