サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2021年5月30日号
〝夫殺し〟させたのは「ドン・ファン」ご本人?金が泣いてる
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牧太郎の青い空白い雲/816

〝紀州のドン・ファン〟こと資産家・野崎幸助さん変死事件。3年経(た)って、55歳年下の元妻が殺人容疑で逮捕された。「やっぱり あの女か?」という印象だろう。

 テレビの情報番組は「これでドン・ファンも成仏するはず」なんて言うけど、野崎さんに「責任」はないのだろうか? 複雑な思いだ。

 野崎さんは1941年、和歌山県田辺市に7人兄弟の3男坊として生まれた。実家は決して裕福ではなく、中学卒業後、すぐに働きに出る。

 頑張り屋だった。「金持ちになる」が大目標。ありとあらゆる職業に挑戦した。

 彼の著書『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』によると、20歳代で(まだ物珍しかった)コンドームの訪問販売を始め、夫が留守の家を訪問、主婦を相手に〝実演販売〟をしてみせた。凄(すご)い人だ。

 何しろ、働き、働き、働き......「儲(もう)け」を投資に回し、巨額の富を築いた。

 素晴らしい人生だ。

〝女遊び〟も結構。稼いだカネをどう使おうと勝手である。

 でも、年格好が近い当方から見れば「カネと女だけの人生」はあまりに寂しすぎる。

 長身でグラマーな元妻に一目惚(ひとめぼ)れした野崎さんは、「結婚したら月100万円の"お手当"をあげる」と言って結婚した。

 彼女はメディアの取材に「正直、月100万円もらえるのは美味(おい)しい話だと思った」と話しているから「カネ目当て」だったのだろう。だから、結婚しても東京に戻って、ロクにドン・ファンの元に帰ってこない。

 野崎さんは腹を立て、結婚3カ月後には「ワシはあの女と別れて、ミス・ワールドと結婚する」と言い出す。

 彼は「ミス・ワールド」と名付けた新愛人?に交通費として月20万円を振り込んでいたらしい。

「カネだけの女」だった元妻は"天然(ぼけ)"だったのだろう。離婚される前にSNSで連絡を取って売人から覚醒剤を入手。ドン・ファンをこの薬で殺害。莫大(ばくだい)な遺産を手に入れようとした。

 和歌山県警の"筋書き"通りだったとすれば、ドン・ファンが馬鹿(ばか)な天然女に「夫殺し」を教えたようなものではないか?

 映画や演歌の「王将」で知られる天才棋士、坂田三吉には「銀が泣いてる」という名文句が残されている。名人位を争った大事な対局。坂田は「銀」で敵陣に攻め込みながら、〝不覚な手〟を打って大失敗。この時「銀が泣いている」という言葉で自分を責めた。

 故人となったドン・ファンに甚だ失礼だが......「貧乏人の僻(ひが)み!」と聞いてくれ。「金が泣いてる」人生なんて寂しすぎるじゃないか?

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