サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2021年3月28日号
オウム真理教のサリン禍を忘れたから「ワクチン」が遅いのだ!
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牧太郎の青い空白い雲/808

 遠〜い昔の、しかも思い出したくない「オウム真理教事件」のことを書かなければならない。

 1989年ごろ、サンデー毎日の編集長だった僕はこのインチキ教団を激しく追及していた。教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)は宗教を〝隠れ蓑(みの)〟に、日本国を乗っ取ろう!と計画。軍事ヘリを調達、自動小銃を密造、化学兵器まで生産していた。

 89年、彼らは教団と対立する弁護士とその家族を殺害。僕も殺されそうになった。

 教団支部の「立ち退き」を巡る裁判を担当した判事を殺害しようとサリンを散布、7人の死者と数百人の負傷者を出した松本サリン事件。東京首都圏の混乱を目的に地下鉄車両にサリンをばら撒(ま)き14人を殺し、数千人の負傷者を出した地下鉄サリン事件......。オウム真理教の犯行はアルカイダやイスラム国(IS)の「お手本」のような史上最悪のテロ事件だった。

 彼らが使用した「サリン」という化学兵器は38年にナチス・ドイツで開発されたもので、第二次世界大戦中、ドイツはサリンの使用を検討したが、第一次世界大戦で毒ガスを浴び、視神経や脳神経に一過性の障害を負ったアドルフ・ヒトラーは「実戦でサリンは使いたくない」。オウム真理教は「ヒトラーでさえ躊躇(ちゅうちょ)した化学兵器」を平気で使った。

 このことを思い出したのは、新型コロナのワクチンが世界で一番?遅れているからだ。なぜ、国産のワクチンが完成しないのか?

 日本は50年ほど前まで、ワクチン研究・製造は盛んだった。接種対象だった子どもがその後、激減。接種をめぐって、国と製薬会社に損害賠償を求める訴訟(「子宮頸がんワクチンの副反応が問題」など)が次々に起こり、ワクチン業界が弱体化してしまった。

 感染症は突然、流行し、製薬企業がワクチンを開発して実用化できるまでに流行が終息するケースが多い。感染症ワクチンを手掛ける企業が極めて少なくなってしまった。

 だから国産ワクチンは期待薄!と専門家は言うが、理由はそれだけだろうか?

 例えばアメリカ。典型的な訴訟社会で、何かにつけて「賠償金」が取れる国柄だが、アメリカ政府は「訴え」が怖くてワクチン開発に〝及び腰〟では断じてない。

 アメリカは「細菌戦」を念頭に入れて、ワクチン開発にカネを投じている。

 未知のウイルスが意図的に拡散されれば国家は崩壊する。

 今や、原子爆弾の時代ではない。未知のウイルスで戦争する時代ではないのか?

 日本の指導者は「オウム真理教」の教訓を忘れている。だから「国産ワクチン」は遅いのだ。

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