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2019年9月29日号
羨望・嫉妬される山本太郎は「令和の中野正剛」だ!
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牧太郎の青い空白い雲/735

(一応?ではあるが)野党第1党の立憲民主党のトップ、枝野幸男さんは「嫉妬深い」ようだ。

最近の記者会見で、立憲の若手が「消費税廃止」を訴える「れいわ新選組」の山本太郎代表と一緒に(昨年6月に消費税を廃止した)マレーシアを視察した件で、枝野さんは「(マレーシアは)消費税を廃止したけど失敗した国ですよね」と冷笑した。

驚きである。野党第1党の代表としては、若手の「研究熱心」を自慢するのが普通だが......若手のマレーシア視察は「消費税減税」で野党結集を進める狙いだったのに、冷たく「消費税ゼロの国は失敗!」と言い放つ。

参議院選で一躍「人気者」になった山本太郎にヤキモチを焼いている!としか思えない。

この枝野発言で「消費税減税で野党共闘」は怪しくなった。

   ×  ×  ×

人間、誰でもヤキモチを焼く。生後5カ月の乳児でもヤキモチを焼く。でも子供と違って「大人のヤキモチ」は複雑だ。

ヤキモチには「嫉妬(jealousy)」と「羨望(envy)」という心理学的に異なる二つの感情が存在する。

18世紀フランスの哲学者・ジャン・ル・ロン・ダランベールは「人は自分の所有しているものに嫉妬し、他人の所有しているものを羨望する。羨望とは"他人の勢力下にあるもの"を所有したいという欲望であり、嫉妬とは"自分自身の所有物"をもち続けようとする時の"邪推深い気づかい"」と定義した。

枝野さんは山本太郎が発掘し、手に入れた「新しい支持層」を"羨望"し、これまで自分が支配していた「野党勢力」を奪われたのではないか?とビクビクしている。

羨望と嫉妬。この二つの感情が入り交じり、枝野さん、つい「指導者としての限界」を露呈してしまった。

   ×  ×  ×

政治家が「嫉妬」に狂うと何をしでかすか分からない。

戦時中のことである。時の東條英機首相を批判して一躍、人気者になった中野正剛という政治家がいた。昭和17(1942)年11月10日、中野は母校・早稲田大学大隈講堂で「天下一人を以て興る」という演題で2時間半にわたり、東條を弾劾する大演説を行った。

「諸君は由緒あり、歴史ある早稲田の大学生である。便乗はよしなさい。歴史の動向と取り組みなさい。天下一人を以て興る。諸君みな一人を以て興ろうではないか!」と訴えた。

中野の呼びかけに、学生たちは全員、起立し、校歌「都の西北」を合唱して応えた。

翌年元日、中野は『朝日新聞』紙上に「戦時宰相論」を発表。「日本には尊い皇室がおられるので、多少の無能力な宰相でも務まるようにできているのである」と(名前はあげなかったが、)東條首相を痛烈に批判した(この論文は朝日新聞の縮刷版には、載っていない。検閲で抹殺された)。

元日、首相官邸で(検閲前の)『朝日新聞』を読んだ東條は羨望・嫉妬した。大学生に圧倒的な支持を得て、その言い分が大新聞で紹介される。

独裁者は「中野正剛」にヤキモチを焼いた。中野は東條にとって最も警戒する人物の一人になってしまった。

この年の10月21日、東條の命令で、警視庁特高部は中野を身柄拘束。厳しい取り調べを受ける。

取り調べの実態には諸説あるが、中野は追い詰められ、事実と違うことも自白したらしい。25日、釈放されるが、憲兵の見張りが続く中で、2日後、割腹自殺した。

   ×  ×  ×

「れいわ新選組」の山本太郎は「令和の中野正剛」ではあるまいか?そんな気がする。

彼は希代の雄弁家である。2時間も3時間も話し続ける。その馬力は並ではない。真っ向から、権力に立ち向かう。屈しない。独裁色が色濃い安倍政権にとって「最も警戒する人物」になっている。

山本太郎は議員ではないが、最も注目され、時に羨望され、時に嫉妬されている。

「嫉妬」の「嫉」は「そねみ」。「妬」は「ねたみ」。二重の「ねたみ」である。『広辞苑』(岩波書店)の「嫉妬」の項には「自分よりすぐれた者をねたみそねむこと」とある。

自分より「すぐれた存在」に気づくと、抹殺するのが「無能な政治家」の常である。

山本太郎のスキャンダルを探せ!という大号令が聞こえてくる。「令和の中野正剛」に「何か」が起こらないとよいのだが。

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