サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2019年1月 6日号
山口組の"拝金派"宅見若頭「殺害」によく似た米中戦争?
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牧太郎の青い空白い雲/700

1カ月以上「天皇制」について書いていたら、友人から「もう少しやわらかいことを書かないと、読者に逃げられるぞ!」と脅かされた。で、今回は「下世話なヤクザ噺(ばなし)」から書こうと思う。
12月中旬、五代目山口組の若頭(わかがしら)補佐だった中野会「中野太郎」元会長の本が2冊、ほぼ同時に発売された。中野元会長は"その筋"では、かなりの有名人。1936年、大分県日田市の生まれで、若いころから「喧嘩(けんか)太郎」の異名を持つ。日本最大の組織暴力団・五代目山口組・渡邉芳則組長(故人)の片腕!と言われる存在だった。
出版されたのは『最強武闘派と呼ばれた極道』(山平重樹著)と『悲憤』(中野太郎著・宮崎学監修)」の2冊。
ともに、1997年、当時の五代目山口組のナンバー2、宅見勝若頭(当時)が射殺された「事件」の真相を明らかにしている。
殺害された宅見若頭は「任侠(にんきょう)道」というよりも、「アレは金狂道!」と言われるほど集金術に長(た)けていた。その「飛ぶ鳥を落とす勢い」の宅見若頭が、なぜ殺されたのか......? 先の2著に詳しい。
   ×  ×  ×
事件の1カ月前、五代目渡邉組長から中野会長(当時)に電話がかかってきた。
「ともかく、はよやれ、カシラ(宅見若頭)のタマ(命)を殺(ト)れ!」
驚いた中野会長は「宅見は病気で、もう長いことはない!と自分で言いてますし、引退を考えてますやろう?ほっといても死にますわ」と"抵抗"するが、親分は「......あかん、今や。今、殺るんや」。
中野会長は悩む。
中野会長と宅見若頭は対立していた。その前年、中野会長が京都府八幡市の理髪店で四代目会津小鉄系組員に襲撃される事件が起こった。ボディーガードが相手の組員2人を返り討ちにした。すわ抗争かと思いきや、宅見若頭は当事者の中野会長に相談することなく、会津小鉄と和解した。中野会長は大いに不満だった。
でも、中野会長は宅見若頭を殺そう!と思っていたわけではなかったという。だというのに、何と親分が「長男のような若頭」を殺せ!という。苦悶した。
彼が悩んでいるうちに(子分の独断かどうかは不明だが)中野会傘下の暗殺部隊4人が1997年8月28日、新神戸オリエンタルホテル4階のティーラウンジで宅見若頭を射殺。あろうことか、銃弾は近くにいた、全く無関係の歯科医に当たり死亡させた。
中野会長は、この事件で、五代目山口組を破門される。五代目が「殺せ!」と命令したのに......それでも、中野会長は「真相」を隠し続けた。
ヤクザとは、たとえ黒いものでも、親分が「白だ!」と言えば「白」になる世界だ。だから「殺せ!」と言われれば殺す。でも親分・子分は血縁のようなもの。親が子供を殺すなんて、中野会長には考えられなかったという。
しかし、現実は違う。「別個の組織」の集合体になってしまった巨大な山口組では「任侠道」は通用しない。トップがナンバー2を殺そう!としてもおかしくない。
   ×  ×  ×
米中貿易戦争も「山口組」によく似ている。世界のナンバー2、中国は破竹の勢いだ。25年前、中国のGDP(国内総生産)は世界のわずか数%だった。それが今や15%。アメリカの24%に次ぐ世界第2位。中国は10年経(た)てば、技術力でも、GDPでもアメリカを抜く?
急成長の秘密は? ナンバーワンから見れば「泥棒」に見える。中国は「膨大の市場」を餌に外国企業の進出を促す。いったん、外国企業が進出すると「市場と技術の交換」を迫って、技術移転を強要する。世界貿易機関(WTO)違反ではないか?
中国共産党は「中国製造2025」計画を通じて、ロボット、バイオテクノロジー、AI(人工知能)などで、世界を支配する!と豪語する。
アメリカとナンバー2の中国の対立は単なる貿易摩擦だけではない。2019年、米中の対立は政治、文化、イデオロギーとあらゆる面で先鋭化するだろう。密(ひそ)かに、22年北京冬季五輪の開催を阻止しようとアメリカは動き出している。ヤクザのようではないか?
   ×  ×  ×
2019年の世界は「米中」のどちらに味方するか?「選択の年」になるだろう。
そうそう、山口組は、事件後「誰が味方か?」分からなくなって内部対立が激化、今では「六代目山口組」「神戸山口組」「任侠山口組」の三つに分裂したままだ。
世界は「仁義なき戦い」に突入する。キナ臭い「年の瀬」ではあるが......読者の皆さん、取りあえず、良いお年を!

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