サンデー毎日

コラム
青い空白い雲
2018年10月14日号
『新潮45』騒動。新潮社の社長は、なぜ「休刊」にしたの?
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牧太郎の青い空白い雲/688

雑誌の編集長はいつも「平地に乱を起こすサービス」を心がけている。
異論、極論、空論であれ、ともかく世間様に「爆弾」を投げ込み、論争を起こす。で、部数を増やす。
例の杉田水脈(みお)衆院議員の性的少数者(LGBTなど)への差別論文を擁護した『新潮45』10月号の「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特集企画も、ごくごく普通の「やり口」である。
それが、なぜか大騒ぎになった。確かに品が悪い企画である。「論」というには、あまりに低レベルだ。
しかし、新潮社の社長さんが〈あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました〉と言うほどか。少しでも部数を増やそうとした(であろう)編集長には、ちょっと気の毒だ。
   ×  ×  × 
「差別に加担している」「右寄りだ」と同僚からも批判されたが......。『新潮45』の特集に登場した"論者"は、他の右派雑誌の常連。当方から見れば、「差別的と受け取られるような発言」を繰り返している人物である。代わり映えしない「既存の右派雑誌のラインアップ」にはウンザリするが、なぜ、『新潮45』だけが批判されるのか?不思議である。
『新潮45』の編集長は「右派雑誌」をマネただけじゃないのか?
はっきり言わせてもらえば、新潮社の主力商品『週刊新潮』の論調だって「右寄り」じゃないか!
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当方、好んで「右寄り」の誌面を作る編集長を「営業右翼!」と呼んでいる。
このところ、雑誌は売れない(『新潮45』の場合、今年4~6月の平均発行部数は1万6800部、10年前同期の約4割に落ち込んでいるという)。ところが「右寄り」の誌面を作ると、僅かだが売れるらしい。そんなこともあって、いっとき、出版界は嫌韓・嫌中モノに走った。全て「営業」のためである。『新潮45』は45歳以上の中高年向けで、1982年創刊。公式サイトには「ちょっと危険で、深くて、スリリング。死角を突き、誰も言わないことを言い......」と書いてある。
編集長はこの雑誌の売り、「誰も言わないこと」を特集した!と言いたいだろうが、実は今回は「極右がいつも言っていること」。下手くそな「営業右翼」になってしまった。
雑誌氷河時代?である。編集長稼業の苦労は理解できる。
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世間が何と言おうと、同僚が何を言おうが、編集長は我慢できる。
だが「株式会社 新潮社 代表取締役社長 佐藤隆信」から〈言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してまいりました。しかし、今回の『新潮45』の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」のある部分に関しては、それらを鑑みても、あまりに常識を逸脱した偏見と認識不足に満ちた表現が見受けられました〉と断定されると......。編集長は立つ瀬がない。
社長さまから突然、梯子(はしご)を外されたらどうしたらいいんだ?
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ある関係者が「社長の裏切り」の背景を推測している。
原因は、安倍晋三首相の言動にあるらしい。杉田議員を自民党に誘って比例単独候補の最上位に押し込んだ安倍さんだが、今回は「杉田擁護」に回らなかった。テレビ番組で、この問題について聞かれ「私の夫婦も残念ながら子宝に恵まれていない。生産性がないというと、大変つらい思いに妻も私もなる」と話した。
〈子どもをつくれない人=生産性がない人=非国民〉という単細胞的思考。コレにはさすがに同調できない。自民党総裁選の最中である。この騒ぎを抑えようと思ったのだろう。ところが、『新潮45』は「そんなにおかしいか?」と杉田論文を擁護して(商売第一と言いながらも)騒ぎを大きくした。安倍さんは苦々しい思いだった。
新潮社の社長さんは「1強」の安倍さんに盾を突いたことに気づいて、大慌て。そこで「異例のお詫(わ)び」になった、という解説だが、どうだろう......。
   ×  ×  ×
真相は分からない。が、もし本当に「お詫び」をするのなら、編集長を処分するのが当たり前。「形だけのお詫び」と思っていたが、なんと休刊するという。「曖昧なお詫び」でお茶を濁して、最後は「やめればいいじゃないか」と開き直る。大手出版社の社長さんは「我慢」が足りない。でも赤字続きだから、何か起これば休刊!と決めていたのかもしれないし......。出版界の冬の時代、これを機にアチコチで「休刊」「廃刊」の雷が落ちるような気もする。
ともかく、編集長稼業はくわばらくわばら!の心境だろう。

うさぎとマツコの人生相談
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