「真打ち」といえば落語家の序列や格付けを表す言葉で、一人前と認められた証しである。しかし、実は、現在は江戸落語にだけ存在する制度で、関西の上方落語には存在しない。そんな中で上方落語協会(笑福亭仁智会長)は、新年度から「上方版真打ち」ともいえる「噺家(はなしか)15周年お披露目『上方落語・噺家成人式(仮称)』」を実施する。
江戸落語の真打ち制度は、落語家が入門後の見習い期間を終えると「前座」として楽屋に出入りでき、さらに「二ツ目」と序列が上がり、一般的には入門から10〜15年で「真打ち」になる。真打ちになると「師匠」と呼ばれ、寄席で「トリ」を務めることや弟子を取ることもできる。
上方でも戦前までは「真打ち」が存在した。だが、封建的な身分制度のようなしきたりへの反発や「落語家の評価はお客さんが決めること。実力主義を重んじるべきだ」とする意見などでなくなったとされる。
関西でも2005年ごろ、上方落語協会の当時の桂三枝(現桂文枝)会長が、上方版の真打ち制度を創設する意向を示し、検討された。しかし、その後は立ち消えになっていたという。そんな中で数年前から、笑福亭仁智会長が一定のキャリアを積んだ落語家に、華やかな祝いの場としての「お披露目興行」の場や真打ちに当たるような制度を模索。上方落語協会内でも議論を重ね、3月25日に記者会見で発表した。
今回の計画では、入門15年をめどにキャリアを評価して対象者として選び、天満天神繁昌亭(大阪市北区)でお披露目興行を行い、1週間連続でトリを務めさせる。一方で前座や二ツ目は設けない予定。お笑いタレントなどから落語家に転じた場合は、転身前の芸歴は落語家としてのキャリアの年数には含まない。また、8月から始まるお披露目興行で相撲の「タニマチ」のような「ひいき筋」を増やす狙いもある。
初年度は2009年入門の桂和歌ぽん、桂福点、桂三語、桂団治郎、林家愛染の5人が繁昌亭で、8月から来年1月まで昼席公演で1週間ずつトリを務める「お披露目」を行う。来年からは神戸市にある神戸新開地・喜楽館も使う。
笑福亭仁智会長は「若手の励みや目標になってくれれば。芸に励み、飛躍の機会にしてほしい」と期待する。同会長は「『成人式』はあくまでも仮称。『元服』もいいかもしれないが、もっといい名前があれば」としており、「真打ち」に相当する呼称も含め、協会ホームページで公募して6月ごろに決める予定だ。
大の落語ファンで、落語家の知り合いも多い浪曲師の春野恵子さんは「二ツ目はないといっても、上方での『年季が明ける』というのが、江戸落語での『二ツ目に上がる』に近いと思います。真打ちという名称でないにしても、協会がバックアップするお披露目興行は大きな励みになると思いますよ。興行はすごくお金もかかり、若手にはなかなかできないので」と期待している。
(粟野仁雄)