前回は「永世7冠」羽生善治九段(53)=日本将棋連盟会長=が、当時「最年少5冠」藤井聡太王将(21)に挑み、注目を浴びた王将戦。その「第73期ALSOK杯王将戦七番勝負」(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社主催)第1局が1月7、8日、栃木県大田原市のホテル花月で指された。前回は羽生九段を退けて初防衛に成功し、その後は前人未到の8冠独占も果たした藤井王将に、今回は「振り飛車」の名手である菅井竜也八段(31)が挑んでいる。そして、第1局は120手で藤井王将が先勝した。
両者は昨年4〜5月の叡王戦五番勝負でも対戦し、藤井叡王が3勝1敗で菅井八段を退けた。この時、菅井八段は第2局で唯一の白星を挙げていた。王将戦第1局は、先手番の菅井八段が「三間飛車」からの「穴熊」で挑むと、藤井王将は「居飛車穴熊」で応じる穴熊同士らしいゆっくりとした駒組の展開。これは叡王戦で菅井八段が勝った第2局とほとんど同じ形だった。
菅井八段の封じ手から2日目が再開されたが、徐々に藤井王将優勢で進む。そして、午後6時半に菅井八段が投了。各8時間の持ち時間のうち、藤井王将が残り時間が4分だったのに対し、菅井八段は38分あり、その玉は金銀3枚と桂馬、香車が守っており「勝負はこれから」に見えた。それだけに意外なほど早い投了に、インターネットテレビABEMAで解説を担当した藤井猛九段も「もう少し指すかと思ったが投了しましたね」と驚いていた。
この王将戦、藤井8冠の人気にあやかった「新商法」もお目見えした。大田原市などが企画した日帰りツアー「OH!SHOW TIME(オウ・ショウ・タイム)」だ。定員は5人で参加費は30万円。しかし、12月23日午前9時からネット申し込みを受け付けると、即座に売り切れた。
ツアー自体は対局2日目に午前8時半ごろから対局場に入り、同9時の封じ手の開封の見学とともに、対局の再開する光景を見守った。その後は別室で佐藤紳哉七段による大盤解説を聞いたり、この日に藤井王将が午前のおやつに選んだイチゴのショートケーキを食べたり、終局後の感想戦も見学。そのほかにお土産などさまざまな特典もあった。高いと感じるか安いと感じるかは自由だが、おおむね好評だったようだ。
一方、藤井王将は非公式戦ではあるが、振り飛車に「敗れて」いた。12月31日に公表されたが、王位戦と女流王位戦を主催する新聞三社連合の加盟各紙の新春紙面を飾る恒例企画「王位・女流王位記念対局」で、中飛車で挑んだ里見香奈清麗(31)に黒星を喫した。
里見清麗は女流王位に加えて女流王座、倉敷藤花の4冠を持つ女流棋界の第一人者。元日には結婚を発表し、現在は福間姓で活動する。駒落ちのハンディはなく、持ち時間に藤井王将10分、里見清麗1時間の差を付けた対局ではあったが、藤井王将は振り飛車の一つの形である中飛車に屈した形となった。
ただ、「条件」が同じとなれば振り飛車相手でも、まずは先勝の藤井王将。その強さや人気は2024年も衰えを知らないか。
(粟野仁雄)