昨年10月、ハリウッドの名優ショーン・コネリーが亡くなった。その時、多くの人がその名演とともに想起したのが、「007」時代の〝カツラ事件〟だったのではないか。薄毛も一つの個性。隠さず、カッコよく、強みに変えて生きる術を探った。
「2年ほど前から薄毛が気になり始めました。これ以上悩みたくないのでスキンヘッドにしたいのですが、周りの反応が気になり、一人では不安で踏み出せません。どうか僕をカッコいいスキンヘッドにしていただけないでしょうか」
薄毛を個性へと転換する男性たちを応援するウェブサイト「NOHAIRS(ノーヘアーズ)」に突然、25歳の男性からこんなコメントが届いた。その後、男性が断髪式の様子をYou Tubeで公開すると、視聴回数は42万回以上、コメントも300件を超えるなど大反響を呼んだ。サイトを運営する高山芽衣さんは26歳の女性。薄毛とはまるで縁のない彼女が、一体どんな理由で応援サイトを立ち上げたのか。
「以前はアパレル関係の仕事をしていて、バーコードヘアの男性をよく見かけていたんです。いっそ短くした方がいいと思っていました。薄毛になると人生終わりとか、女性にモテないと感じる男性は多い。でも私の父親はスキンヘッドでもカッコよかったんですよ。薄毛というコンプレックスを強みに変えて、堂々と魅力的に生きる人たちをロールモデルとして発信することで、応援できればと考えたのです」
日本では薄毛になると自信を失い、頭皮を隠すか、育毛しなければ......と、悩みの淵に堕(お)ちる男性は多い。それに比べて欧米各国は薄毛をあまりネガティブに捉えず、むしろセクシーと感じている節すらある。ブルース・ウィルスしかり、ジャン・レノしかり、ジェイソン・ステイサムにスタンリー・トゥッチもいる。薄毛俳優たちの堂々たる佇(たたず)まいや男っぷりは眩(まぶ)しいほどだ。
昨年10月、90歳で死去したハリウッドの名優ショーン・コネリーも、その代表格だろう。薄毛の落語家・立川談四楼師匠も、偉大な名優の死をこう悼む。
「ハゲなのに笑いが起きないどころか、むしろ渋くてカッコいい。ハゲであることがとても自然で、かつ気品も知性も感じられます。私はイケてるハゲのお手本として、ずっと彼を追い続けていました。ただ、かつらメーカーにとってショーン・コネリーが味方だったか、敵だったかは分かりませんですけれど」(笑)
20代ですでに薄毛だったショーン・コネリーが「007」シリーズで初代ジェームズ・ボンドを演じた時にカツラを被(かぶ)っていたというのは、知る人ぞ知る逸話。だが、それ以降はカツラを取り、素の姿で勝負して、むしろ好感を呼ぶことになる。
もちろん欧米で薄毛男性が多いことも、〝追い風〟になったかもしれない。アデランスが2009年に発表した「世界の成人男性薄毛率」調査によると、上位にランクインするチェコ、スペインやドイツなどでは薄毛男性が約40%を占める。一方、日本の薄毛率は約27%と4人に1人にすぎない。ここに「日本人らしい同調意識」(高山さん)が加われば、薄毛をネガティブに捉える〝舞台〟は揃(そろ)ってしまう。