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2020年11月 1日号
将棋記者・編集者座談会「藤井聡太」2冠(18)は将棋界をどう変えるのか?
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今夏、藤井聡太(18)はあっという間に2冠(棋聖・王位)を手にした。藤井は2017年、デビューしてから29連勝を挙げたが、今回は当時をしのぐ「第2次藤井ブーム」に将棋界は沸いている。藤井はなぜ強いか。将棋界をどう変えるのか。将棋記者らが語り尽くした。

粟野仁雄(司会) 藤井2冠の強さはどこにあるのでしょうか。

山村英樹 一番難しい質問です。それがわかれば苦労しません(笑)。一言で言えば将棋に本当に真摯(しんし)に取り組み、本番で実力が発揮できることです。同年齢の頃の羽生善治さん(永世7冠資格)は終盤の強さで勝っていたけど、藤井さんは序盤もしっかりしている。羽生さんは19歳で初タイトル(竜王)を取りましたが、初冠後に若干失速しました。逆転ではなくタイトル保持者らしい将棋を目指し、将棋が整いすぎたようです。藤井さんがどうなるかわかりませんが、タイトルホルダーになると将棋が変わったりしますね。

相崎修司 序盤の技術が昔より向上しているため、強い人はより序盤からリードしやすくなっています。その中でも、藤井さんは手を読む速さが尋常ではありません。本人の資質としか言えないでしょうね。渡辺明名人(他に棋王、王将を併せ持つ)の10代当時と比べても段違いに大成している。その頃の渡辺名人は年相応の若者でしたが、藤井2冠はより将棋に特化している印象です。

田名後健吾 「光速の寄せ」の谷川浩司九段(永世名人資格)は、若い頃は序盤が苦手で「早く終盤になればいい」と言っていましたし、羽生九段も「羽生マジック」といわれるくらい終盤の逆転勝ちが多かった。藤井2冠は29連勝の頃までは詰め将棋で鍛えた終盤力だけで勝っている印象で、その頃の取材では「中盤の大局観の精度が課題」が口癖でした。彼は三段になった頃からAI(人工知能)を研究に導入するようになり、最年少四段(プロ入り)にもつながりました。今では誰よりも(AIを)うまく使いこなして、課題も克服された様子。序盤から終盤まで完成度が高いと評する棋士は多いです。

粟野 加藤一二三(ひふみ)九段は藤井を「欠点がない」と称賛しています。弱点や課題は。

山村 目立つ欠点はないですが、人間ですから弱さもあるはずです。タイトルを取った先輩には「経験力」がある。あえて言えば、藤井さんが経験不足なことでしょうか。先輩のタイトルホルダーたちも黙ってはいないから、どう戦うか。

田名後 先手も後手も苦にしないし、欠点は見つけにくい。強いて挙げるなら時間配分でしょうか。中盤の難所でつい時間を使い過ぎてしまい、終盤で秒読みに追われて間違えたりすることがあります。その点、渡辺名人や豊島将之竜王は終盤に十分時間を残しますので慌てることがありません。

相崎 横歩取り(角道を開けた相手の歩を飛車で取る戦法)の勝率が5割を切っています。この戦法は一部のスペシャリストしか使わない傾向があり、矢倉(駒組みの一つ)や角換わり戦法(序盤に角を交換して戦う)と比較して主流ではない。藤井2冠の実戦例でも数は多くありません。そのため研究が後回しになっている可能性があります。

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