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2025年2月16日号
いじめ被害が脳を変化させる影響 長期間続く心身への深刻な負担
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 30人の研究者が共同で発表した「いじめ」に関する論文が話題を呼んでいる。アイルランド王立外科医学院などに所属する研究者たちは20249月、「いじめと早期脳発達 思春期から成人初期までの縦断的構造MRI研究」という論文を発表した。

 この研究では、2094人の参加者(女性1009人)を対象に、14歳、19歳、22歳の3時点でMRIスキャンを実施。慢性的ないじめの被害(悪口、暴行、仲間外れなど)が、思春期から成人初期への移行期の脳発達に、どのような影響を与えるかを調査、分析した。

 その結果、一般的ないじめの被害者は、扁桃体(へんとうたい)や海馬などの皮質下領域で体積が増加し、小脳や島皮質の体積が減少するなど、脳構造の49の領域で変化を確認。長期にわたって記憶面や学習面、運動機能、感情の調節をつかさどる部位が変化していた。感情のコントロール能力や、ストレス耐性に影響を及ぼす可能性があることが判明したのだ。

 自身も学生時代にいじめを受けた経験のあるケモノさん(仮名)は現在、精神保健福祉士として心に病を抱えた人の生活支援や社会参加の手助けを行っている。大学時代からYouTubeで自身が受けたいじめの内容を発信してきたケモノさんは、自身の経験から、いじめの影響は実社会での人生を大きく変えてしまうと語る。

「私は高校時代にいじめを受けてから、約6年が経(た)ちますが、今でも当時のことを1日も忘れることがありません。初対面の人と話す時は今でも『漠然とした怖さ』を感じてしまいます」(ケモノさん)

 いじめの影響は学生時代の1時点でおさまるものではなく、大人になった今でも続いていることは、多くの社会人も証言する。

「成人してからも何かあるたびに、いじめを受けたことがフラッシュバックします。自分をいじめた人間の目つきが記憶に残っているので、ずっと人の目を見て話ができませんし、人の厚意を素直に信じられません。仕事で賞をいただいても素直に喜べず、自分がもらえるわけがないと思ってしまうのです」(40代男性)

「高校時代、よく肩にパンチをされたり、タバコを肌に押し付けられたりしていました。高校を出て地元を離れたら暴力行為はなくなったのですが、いまだに後ろからいきなり蹴られるんじゃないか、電話に出たらいきなり怒鳴られるんじゃないかと、心臓の鼓動が速まることがあります」(30代男性)

「周囲の子が考えていることがわからず、思ったことをすぐ言う子どもでしたので、よく変な噂(うわさ)を流され、仲間外れにされました。孤独でしたね。そううつぎみで感情の起伏が激しく、今も精神科に通院しています」(20代女性)

 この調査では、性別によって脳の変化に差が見られることも判明した。男性は運動や感覚に関わる領域でより多くの体積変化が観察されたのに対し、女性は感情処理に関わる領域で多くの変化が見られた。

 今後、いじめの対策や介入方法を検討する際には、性別も考慮していく必要があるだろう。

(濱井正吾)

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 ◇はまい・しょうご

 1990年生まれ。教育ジャーナリスト。ニックネームは「9浪はまい」。9浪目で早稲田大教育学部に入学した。著書に『浪人回避大全』

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