牧太郎の青い空白い雲/1020
竹製の「耳掻き」を使って〝耳掃除〟をしていたら、耳の中から血が出てきた。慌てた。81歳の「年寄り」だけど......。こんなこと、生まれて初めての経験だ。医者に行くべきか? 内科に行けばいいのか? 外科かなあ? どこへ行ったらいいのか分からない。「駅前に耳鼻咽喉(いんこう)科がありますよ」と言われ、やっと安心した(笑)。
そのクリニックに行って驚いた。
3月初めの午前11時過ぎ。40席を用意した待合室は満員。外の廊下にまで列ができている。それも20〜40代。どちらかと言えば「若者」? 老人はいない。
日本国で「何か」が起こったのか? しばらくして「理由」が分かった。大部分の患者が「花粉症レーザー治療」を受けるための「列」なのだ。
この治療、鼻の粘膜にレーザーを照射し、腫れを焼灼(しょうしゃく)・凝固させることで、鼻づまりや鼻水を劇的に改善する。15分から30分で、簡単に終わる。鼻づまりに効果が高く、保険適用。妊娠中や子どもでも受けられるようだが、(受付を見ていると)1人8000円程度払っている。一家3人で治療を受けたケースもあるようだから、結構カネがかかる。
花粉症は今や「国民病」。「2人に1人」がかかる(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が2019年に実施した調査では、花粉症の有病率は42・5%)。スギは昔から日本に自生していたが、戦後、乱伐によって荒廃した山地で、スギの植林が積極的に行われ、結果、花粉の飛散量が増えた。
知り合いはかなり重い花粉症。「生のトマトが食べられなくなった。花粉―食物アレルギー症候群(PFAS)が起こるんだ」と嘆く。
花粉―食物アレルギー症候群とは? 簡単に言うと花粉中のアレルゲンと似た構造の「たんぱく質」を持つ食物を食べることで、アレルギー反応が起こる場合がある。「アルコールはやめて」と言う医師もいるそうだ。ともかく3月から5月、日本人の大半が「鼻水」「鼻づまり」で苦しむ。
でも「重症花粉症の特効薬」が出てきたらしい。
「ゾレア(一般名オマリズマブ)」。2003年、重症端息(ぜんそく)に対するものとしてアメリカで承認。その後、従来の飲み薬や点鼻薬で改善しない重症・最重症スギ花粉症を治す注射になった。喜ばしい。ところが医療現場で、この注射を使うケースはきわめて少ないらしい。薬価が高いのだ(150㍉㌘のペン製剤の薬価は2万1830円)。厚労省はこの薬を使われると医療財政への負担が大きすぎる!と判断したという。あえて「厳しい保険適用基準」を作っている。要するに「特効薬」ではあるが、ほとんど医師はこれを使えないのだ。
「宝の持ち腐れ」ではないか!
花粉症は国がつくった「公害」のようなもの。治療費をタダにして「特効薬」を使おうや!
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◇まき・たろう
1944年生まれ。毎日新聞に入社後、社会部、政治部を経て『サンデー毎日』編集長に。宇野宗佑首相の女性醜聞やオウム真理教問題を取り上げる。現在、毎日新聞客員編集委員。ブログに「二代目・日本魁新聞社」がある