日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が長年の証言活動などを評価され、今年のノーベル平和賞を授与される。日本被団協を構成する団体の中でも、愛知の組織だけが行ってきた地道な取り組みがある。
愛知県原水爆被災者の会(愛友会)が50年以上続けているのは、被爆者本人らが県内の自治体を回り、核兵器廃絶への協力などの要望を行う「被爆者行脚」だ。
理事長の金本弘さん(80)=広島市出身=をはじめ、高齢となった被爆者らが行き先を分担。今年も10月末から計16日間かけて県庁と全54市町村をくまなく訪ね、核廃絶の声を上げてほしいとの願いを伝えた。
金本さんはノルウェー・オスロで12月10日に開かれる授賞式に、代表団として出席する一人だ。
筆者は、ある町役場への行脚を取材した。職員らと面談した金本さんは、生後9カ月のときに爆心地から2・5㌔のところで姉と被爆した自身のエピソードを交えつつ、当時の広島の惨状を説明。平和教育の充実などを訴え、「機会があれば、私も中高生らへ話をしに来ます」と申し出た。
役場側で対応したのは課長以下3人だ。事前に受け取っていた要請事項に回答し、「非核」を加えた平和宣言を検討していくなどの考えを明らかにした。
一方、日本の核兵器禁止条約参加を求めて町長が署名することには「外交・防衛に関する課題であり、国の専管事項に係る活動は自制すべきだ」として、応じなかった。
愛友会はこの署名集めを「最重要の要望」と位置付けるが、これまでに首長が応じたのは9市町にとどまっている。
被爆2世で愛友会副理事長の大村義則さん(68)は「市町村が国の下請け機関だった戦前は、徴兵などの戦争政策でも国の指示に従わされたが、戦後は地方自治が確立された。核戦争を起こさないために自治体が一緒に声を上げてほしい」と話す。
双方の考えとも理があるように思える。だから、県内を駆け回って署名を求める当事者の主張に「全くその通り」とうなずくことはできず、もどかしかった。
ただ、ノーベル賞が決まったのに、役場が課長クラスの職員に対応を委ねたことには、疑問を感じた。多くの市町村で首長が同席しないのが現状だが、受賞に至った長年の活動にしっかり敬意を示すべきではないか。
対応を改めた自治体もある。瀬戸市の川本雅之市長(59)は署名に応じなかったものの、今年は一行と会って祝意を伝えた。川本市長は取材に対して「受賞は平和への新たな希望となるとともに、未来の世代に向けた強いメッセージとなる」とのコメントを寄せた。
ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ国際情勢はきな臭さを増す一方だ。被爆者団体との政治的な立場の違いはさておき、ノーベル賞受賞を契機に、住民らの問題意識を喚起する。各自治体には、柔軟な対応を期待したい。
(橋本謙蔵)