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2024年12月 1日号
地域、世帯、男女...格差解消も狙い 年学費38万円、ZEN大学の未来像
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 20254月に開学する「ZEN大学」が、1112日から学生の募集を開始した。入学すると唯一の学部「知能情報社会学部」に所属し、オンラインのみで大学卒業資格を取得することができる。公益財団法人日本財団と、日本最大級の生徒数を誇るネットの高校「N高等学校・S高等学校」で実績を持つ株式会社ドワンゴが運営する。

 12日に開かれた発表会でドワンゴ顧問の川上量生(のぶお)氏は、都会と地方の地域格差、世帯年収による進路の格差、男女の格差などの存在に触れた上で、ZEN大学が数々の格差を解決する可能性について、こう述べた。

ZEN大学は全ての人に大学進学の機会を提供できる、そういったポテンシャルを持っていると考えています」

 そのための施策として、ひときわ目を引くのは年間38万円という学費の安さだ。国公立大学の約54万円よりも安い。さらに、授業料免除型・給付型の奨学金制度も存在する。入学定員は3500人。従来の通信教育課程のみの大学では、放送大学の15000人に次ぐ数だ。

 ネットとリアルを融合した学びや現場体験を重視する点も、今までの通信教育課程のみの大学とは異なる。「N高グループ」で課外授業の実施経験があるドワンゴ、海外にも広いネットワークを持つ日本財団の強みに加え、多くの自治体・企業とも連携。100種類を超える国内外での研修や留学などのプログラムの実施が可能になった。

 日本財団専務理事の笹川順平氏は、「社会に出る前の18歳からの4年間、たくさんの準備ができます」と大学と教育の重要性について触れた上で、ネットとリアルが融合するプログラムが必要な理由について言及した。

「教育は、ネットで受ける授業と、現場で考えて解決しにいく体験の相乗効果。そこで足りない自分を見つけ、(学生は)『また教育を受けたい』と思うようになる」

 住んでいる地域や学力、時間に関係なく授業を受けられるZEN大学は、受講できるカリキュラムも279科目と豊富だ。各分野の専門家から専門性の高い講義を受けることができる数理、情報、文化・思想などの科目に加えて、イラスト制作の基礎や漫画のキャラクターの設定などについても、漫画家やVTuberといった人気のクリエイターから学ぶことができる。

 グローバル社会で活躍できるように、AIにはない「個性」や「価値」を育てることを目的にした日本初の本格的なオンライン大学。東京大の吉見俊哉(しゅんや)名誉教授(社会学)は、「大学入学時の偏差値と年齢で、社会がその人の能力を推定することが問題」と日本の大学の課題を指摘した上で、大学が見据える未来についてこう語る。

「新しい大学の在り方は、『ネットワーク型』だ。いろいろな都市に大学的な機能が分散していく構造に変わるべきだと思う。ZEN大学はその可能性を秘めている」

 顕在化する格差問題に立ち向かい、これからの世の中で通用する人材の育成を目指すZEN大学の今後に注目だ。

(濱井正吾)

 ◇はまい・しょうご

 1990年生まれ。教育ジャーナリスト。ニックネームは「9浪はまい」。9浪目で早稲田大教育学部に入学した。著書に『浪人回避大全』

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