ZOZO創業者で実業家の前澤友作氏が再び、美術品市場で注目の人となっている。前澤氏が狙う美術品ターゲットは、国宝級の絵画が多数収蔵されていることで知られるDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)の作品群だ。
発端は、116年の歴史を持つ大手化学メーカー「DIC」が8月27日、運営するDIC川村記念美術館を来年1月下旬から休館すると発表したことにある。DICは美術館運営について「価値共創委員会」を設立して検討を重ね、中間報告では、「東京への移転を想定した『ダウンサイズ&リロケーション』もしくは『美術館運営の中止』を前提とした2つの案となる」とした。
DICが美術館の閉館、作品群の売却を検討しなければならないのは、業績悪化とアクティビスト(物言う株主)からの圧力によるものだ。美術館の経営は「近年はずっと赤字続きだった」(DIC関係者)という。最終決定は12月までにまとめるとしているが、仮に、美術館の運営から撤退することになれば、作品群は売り出されることになる。
川村記念美術館は1990年に開館。大日本インキ化学工業(現DIC)創業者で、町の印刷屋から世界的な化学メーカーに飛躍させた川村喜十郎氏ら川村家3代のコレクションを所蔵。754点の所蔵作品のうち384点をDICが保有しており、「当社が保有する全作品の資産価値は2024年6月末時点の簿価ベースで総額112億円」(DIC)という。
一方、前澤氏は自身のX(旧ツイッター)で「DIC川村美術館の一時閉館は寂しいです。僕に何かできることがあれば美術愛好家として協力したいと思っています」「もしコレクションを売却するという方向なら、数々の名作が日本から出ないように、まずは日本の買い手にアプローチして欲しいな。僕も待ってます」と、買い取りに意欲を示している。
現代アートのコレクターとして知られる前澤氏は16年、クリスティーズのオークションで、米国人画家ジャン・ミシェル・バスキアの作品を5700万㌦(約62億7000万円)で落札。17年にはバスキアの別の作品をサザビーズで1億1050万㌦(約121億5500万円)という当時史上最高額で落札した。
その6年後の22年5月、クリスティーズで落札したバスキアの絵画をオークションに出品、5700万㌦で購入した作品は8500万㌦で売却され、50%近いリターンを稼いだ。
実は、前澤氏は18年、川村記念美術館の日本画展示終了を受け、重要文化財の「烏鷺図屏風(うろずびょうぶ)」を買い取っており、繋がりがある。
川村記念美術館はフランスの画家クロード・モネの「睡蓮(すいれん)」などを所蔵することでも知られるが、ピカソやモネ、ルノワールなど著名画家の作品ほかマーク・ロスコやフランク・ステラなど良質な現代美術の作品群が揃(そろ)う。
地元佐倉市は「移転・閉館はわが国文化芸術の普及・発展に大きな損失」として廃館に反対しており、ウェブ署名活動を進めている。いっそのこと前澤氏が美術館をまるごと買い取ってしまってはどうか。
(森岡英樹)