この夏、コメが売り場から消える「令和の米騒動」が起きたのは、昨年の猛暑による品質低下で流通量が減少したことも要因となった。地球温暖化がいよいよ日本人の主食確保に影響し始めたわけだが、一部の生産者は気温上昇を逆手にとった「再生二期作」という新しい農法で、収量拡大と生産効率化に挑んでいる。
浜松市中央区の浜名湖近くの田んぼでは9月5日、コメ農家の宮本純さん(49)が「にじのきらめき」の収穫を始めていた。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が暑さに強い主食用米として開発した新しい品種で、コシヒカリ並みの食味を誇る。
コンバインで刈った跡が雑に見えるのは、稲をなるべく高いところで切ろうと苦心した結果だ。養分が残った切り株からは、そのうち緑鮮やかな〝ひこばえ〟が伸びてくる。新しい芽を育て、年内に穂をもう1度実らせるのが再生二期作だ。
この方法を約20年にわたって研究してきた農研機構の主席研究員、中野洋さん(50)は温暖化が稲作に与える悪影響に懸念を示す一方で、「春や秋の気温上昇で稲の生育可能期間が延び、年に2度収穫できるようになってきた。これを利用しない手はない」と狙いを語る。
中野さんが2021、22年に福岡県筑後市でにじのきらめきの再生二期作を行った試験栽培では、田植えの時期や刈り残す長さを調整することで驚くべき成果が上がった。<>
もみの数が多く、粒が大きくなる多収品種ということもあり、2度の稲刈りを合計した10㌃当たりの収量は平均約950㌔に達した。試験とはいえ、同県のコメの平均収量(482㌔)の倍近い。
しかも、沖縄県などで行われる通常の二期作と比べると作業が大きく軽減される。田植えが1度で済み、種もみから改めて苗を育てる手間も省けるからだ。
品質はどうか。コメは穂が伸びる時期に高温にさらされると、白濁する粒が増えて等級、食味が低下する。それが近年のコシヒカリの不振にもつながった。しかし、にじのきらめきは高温条件でも外観や味を保つことができるという。
ただ、農家としては秋に用水を確保するのは簡単ではないし、稲を高く刈るには通常と異なるコンバインが必要になるなど課題は残る。
農研機構の指導を受けて再生二期作に初めて取り組む浜松市の宮本さんは、やはりコンバインの調達に悩まされたが、とにかく1度目の稲は順調に育った。「11月にもプラスアルファの収穫があるので、コメを待ってくれるお客さんの役に立てる」と話す。
中野さんは「安定供給や低コスト化に役立つ技術だが、浸透するには10年単位の時間がかかるだろう。将来に備えて、今から取り組んでもらう意義は大きい」と話し、先駆者たちの挑戦に期待を寄せている。
(橋本謙蔵)