学研ホールディングスのグループ会社「Gakken」は、難関大対策のオンライン映像授業「学研プライムゼミ」を大幅割引で利用できるサービスを展開。9月だけの期間限定だが、通常の月額払いと比較すると約29%安い6万6000円(税込み)で購入できる。入試本番までの7カ月間、9科目のプロ講師の授業を受講し放題のサービスは、受験生にとって大きな後押しになるだろう。
さまざまな予備校や塾、教育サービス機関が「教育格差を是正したい」という意識のもと、講義動画や問題解説動画を配信している。だが、そうした映像授業を有効に活用できるのは、受験生の中でも裕福な家庭や優等生に限られる可能性はある。果たして本当に、教育格差の是正につながっているのだろうか。
「大学全入時代」に突入した現代でも、2023年の日本の大学等進学率(短大含む)は60・8%にすぎない。その中にも、名前を書いたら入れるとささやかれる「ボーダーフリー」の大学へ進む者が数多く存在する。
神戸大の葛城浩一准教授(教育社会学)は論文「ボーダーフリー大学における学士課程教育の質保証の実現可能性」で、「ボーダーフリー大学」を「受験すれば必ず合格するような大学、すなわち、事実上の全入状態にある大学」と定義し、入学定員充足率が100%未満の大学が該当するとしている。日本私立学校振興・共済事業団が23年度に公表した「私立大学・短期大学等入学志願動向」によると、私大・短大600校のうち、320校が入学定員充足率100%未満だ。
塾や予備校に通う者が多くなる偏差値50以上の高校においても、その分断は大きい。たとえば、偏差値65以上の進学校に通う生徒の多くは主体的に勉強をしている。映像授業の活用も抜群に上手(うま)い。教材に目を通しつつ、教育系YouTuberや映像授業サービスの音声をイヤホンで聴き、スピードを「1・5倍〜2倍速」に調整したり、同じ箇所を聴き直したりしながら、わからない箇所を効率よくつぶす作業に取り組む。
一方で、偏差値が50程度の高校では、自習室で寝たり、趣味や娯楽に関するYouTubeチャンネルを見たりする生徒の姿が見受けられる。そうした学校にも映像授業を聴く生徒はいるが、周囲に映像授業を使用している人がいないため、自分がやっていることに自信が持てず、自分がやるべき勉強も正確にわからないため、授業の取捨選択が上手にできない。その結果、中堅程度の学校の生徒の多くは、進学校の生徒に比べて学力の伸びが鈍くなってしまうのだ。
創価大の劉継生教授(情報学)は論文「情報格差を解消するための対策に関する研究」で、新聞やテレビといった伝統的メディアと比較して、「パソコンやスマホというネットメディアは情報格差が顕著で、その中の一つである情報処理能力の格差は、人間の知恵や価値観に関わっている」と述べている。
思考力が問われる問題が各大学で出題されるようになり、勉強の効率化が必須となった現代の受験戦争。いくら講義動画が普及しようとも、現在の映像授業が「進学校の生徒の補助」にしかなっていない以上、教育格差の拡大は避けられないだろう。
(濱井正吾)