7月1日に山梨県側、10日に静岡県側で山開きの富士山で、今夏からオーバーツーリズム(観光公害)対策が本格化する。
環境省によると、昨年の富士山の登山者数は、四つの登山道を合わせて約22万1000人。コロナ禍前とほぼ同水準の数に戻る中、山頂付近の過度な混雑や夜間の「弾丸登山」をはじめとした危険行為、ゴミの放置や野宿などのマナー違反が問題になっている。
山梨県富士山保全・観光エコシステム推進グループの担当者は、「インバウンドが増え、各地でオーバーツーリズムが言われる中、今季も昨年並みか、それ以上の登山者が富士山を訪れると考えられる。このままにすれば大きな事故が起こりかねない」と話す。
実際、筆者は昨年8月末に富士山に登ったが、早朝の山頂は世界各国からの登山者で大混雑。ご来光の時に登山ガイドが「みんなが見られるように配慮しましょう」と声を張り上げていたのが印象的だった。
そうした状況の中、登山者の約6割が利用する山梨側の吉田ルートで、県条例に基づいた新たな入山規制が導入される。
まず、登山者数の上限を1日4000人と定めた。県によると、4000人を超えると登山道の複数の場所で登山者同士が接触する可能性がある過度な混雑が生じるという。ちなみに、昨年は5日間、コロナ禍前の2019年は10日間で4000人を上回っている。
また、午後4時〜午前3時には登山口のゲートを閉鎖。山小屋の宿泊予約者を除いて、この時間帯の入山を制限する。
1人2000円の通行料の徴収もスタート。ゲート整備や警備員配置などの規制の運営費に加え、巡回指導員の増員、外国人サポートの拡充、富士山噴火に備えたシェルターの建設などに充てるという。14年から実施している任意の保全協力金1000円も継続し、いずれも支払いは登山口か、オンラインの通行予約システムで手続きを行う。
オンライン予約は上限4000人のうち3000人分。前日まで予約可能だが、自己都合のキャンセルや変更ができないので、注意が必要だ。
一方で静岡側の須走、御殿場、富士宮の3ルートは人数制限や通行料はない。登山道が県有地の山梨側と異なり、国有地である静岡側は、県条例による規制が難しいという事情がある。
そうした中、静岡県はオンラインの入山管理システムを開設し、登山者全員に登山計画の登録やルール・マナーの事前学習を求め、弾丸登山の自粛や協力金の支払いを呼び掛ける。
同じ山を登る手続きがルートによって異なるというのは混乱を招きかねない。山梨、静岡両県は多言語で周知を図るが、前出の山梨県の担当者は「初めての年なのでいろいろなトラブルはあるだろう」と覚悟する。
両県で事情は異なるとはいえ、一体となった分かりやすい情報発信が求められる。
(一ノ瀬伸)