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2024年7月14日号
社会 東大、学費値上げ案に学生と教員反発 警察騒ぎで広がる波紋
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 東京大の20年ぶりとなる学費の引き上げ案が波紋を広げている。降って湧いたような年間約10万円の増額に、一部の学生と教員が「拙速だ」と反発。藤井輝夫学長と学生との意見交換会の後には安田講堂に警察官が出動する騒ぎに発展するなど、収束の兆しは見えない。

 東大の案は、学部・修士課程の535800円と博士課程の52800円を、それぞれ642960円に改定するもの。文部科学省令が定める国立大の「授業料標準額」は535800円で、各大学の裁量で最大20%上乗せできる。この規定に基づく上限いっぱいの値上げとなる。最後に学費を上げたのは2005年の標準額引き上げのタイミングで、その後は据え置かれている。

 この案が5月に報じられると、学生たちはSNSなどで一斉に反対した。家計への負担だけではない。「東大が値上げすれば他の国立大にも波及する」という危機感をあらわにする学生もいる。教員からも「東大は裕福な世帯出身者が多く、その傾向を一層強める」と問題視する声が上がった。

 なぜいま値上げなのか。その理由について、東大は6月にホームページに掲載した藤井学長名の文書で①教育研究環境の充実②設備老朽化③物価上昇や光熱費等の高騰④人件費の増大―などへの対応を挙げた。

 こうした状況は、東大に限った話ではない。標準額が据え置かれる一方で、国から支出される運営費交付金は少子化や国の財政難を理由に削減され続け、24年度は総額1784億円と、04年度に比べ13%減少した。19年度以降は一橋大など首都圏の7校が授業料を引き上げた。国立大学協会は財務状況について「もう限界です」と異例の表現で危機感を表明した。

 そんな状況で、藤井学長と学生がオンラインで意見交換する「総長対話」が開かれた。学生たちからの質問に、藤井学長は「皆さんの意見を聞いて決めたい」と繰り返すばかり。値上げの時期も決定プロセスもけむに巻いたまま、2時間近くに及んだ対話は終わった。

 騒動が起きたのはその後だ。一部の学生らは安田講堂前で値上げ反対や藤井学長との面会を求める抗議デモに参加していた。東大によると、正面玄関以外の出入り口から学生が安田講堂に侵入し、制止しようとした警備員がけがをしたとして警察に110番した。居合わせた大学院生によると、警察官らが約30人駆けつけ、物々しい雰囲気に包まれた。

 教養学部学生自治会理事会は、東大が警察に通報したことを重く見る。東大紛争を経て1969年に東大と学生との間で結ばれた「東大確認書」で、原則として学内の問題を解決する手段として「警察力を導入しない」と定めていることに触れ、「学生による自由な意思表明の機会が阻害されかねないことに深刻な懸念を表明する」と非難した。

 関係者によると、東大は25年度から新たな授業料を適用したい考えだ。しかし、安田講堂前の騒ぎもあり、言い出せる雰囲気ではなくなっている。

(伊澤拓也)

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