「『チェキ』は入荷して店頭に置いた途端、売れちゃうんですよ。『写ルンです』もお一人様1点限り。制限を掛けないとすぐになくなってしまう。在庫の問い合わせも多いですね」
そう話すのは、東京・世田谷区の「スズキカメラ」の仙波誠さん。「チェキ」とは撮ったその場で写真がプリントできるカメラ「instax(インスタックス)」の愛称だ。お馴染(なじ)みのレンズ付きフィルム「写ルンです」は、詳しい説明は不要だろう。
近年、こうしたフィルムのインスタントカメラが人気だ。原材料の高騰などで価格は、軒並み上がっているにもかかわらず、若年層によく売れているそうだ。仙波さんは「一番多いのは大学生とか社会人なりたて、くらいかな。高校生もいますよ」と言う。
両製品を手掛ける「富士フイルム」(東京・港区)によると、「チェキ」は1998年に発売。現在では、アナログだけではなく、モニターが付いたデジタルとのハイブリッド、スマートフォンの画像を転送して印刷できるプリンターなど、多彩なモデルを展開する。
シリーズの売り上げは、2000年代にデジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及で大きく落ち込んだが、10年代に徐々に増加し、21年度から3年連続で過去最高を更新。24年度の売り上げ目標だった1500億円を1年前倒しで達成した。「チェキ」の絶好調が手伝い、23年4月〜24年3月期の富士フイルムホールディングスの連結決算(米国会計基準)は過去最高益を記録した。
累計販売数が8000万台を超える「チェキ」は、世界100カ国以上で販売していて、売上比率は海外が9割以上を占める。イメージングソリューション事業部統括マネジャーの高井隆一郎さんは「商品ラインアップの拡充に加えて、販売チャネルを世界中に広げ、グローバルブランディングに注力してきました」とヒット戦略を語る。
また、「写ルンです」は売り上げや販売台数などの数字こそ公表されていないが、「近年、増加傾向」(同社)だという。
デジタル全盛の時代におけるインスタントカメラのヒットは、アナログの再評価を裏付ける。同社広報の髙木宥里さんは、「フィルム独特の風合いやプリントするまでどんな写真になるかわからないワクワク感が、スマホが当たり前の若い世代を中心に新しい価値として楽しまれています」と話す。
「モノ感」もキーワードだ。「チェキ」では「don't just take, give.(とるだけじゃない、あげたいから。)」をタグラインに掲げ、チェキプリントを家族や友人と共有したり、大切に保管したりする楽しみをアピールしている。
「チェキ」からは今春、クラシックなデザインのアナログ高級モデルが発売。また、品薄状態が続く専用フィルムの生産設備の増強も図る。
「一過性のアナログブームとは全く考えていません。今後も面白い商品を出していく予定で、まだまだ伸びていく期待があります」(高井さん)と強気の姿勢だ。
(一ノ瀬伸)