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2024年2月18日号
社会 「桐島聡」の潜伏先の音楽仲間 「20年間も気がつかなかった」
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 1974〜75年の連続企業爆破事件のうち一つに関与した疑いがあるとして指名手配されている過激派「東アジア反日武装戦線『さそり』」メンバー、桐島聡容疑者(70)を名乗る男性が1月29日、入院先の神奈川県鎌倉市の病院で死亡した。男性は数十年前から隣の藤沢市南部にある工務店で「内田洋」と名乗り、住み込みで働いていた。

 そして、警視庁がDNA型を桐島容疑者の親族と照合したところ、男性との親族関係であることに矛盾がなかったことが判明。ともに同庁は2月2日、男性の自宅を家宅捜索した。

 藤沢市は人口約44万人。県内には横浜、川崎、相模原と三つの政令市があるが、「ただの市」では最も人口が多い。江の島などの観光スポットがある南部は、明治中期に日本で初めての大型計画別荘地として開発された地域もあり、大正時代には高級住宅地として発展した。「住みたい街」などといったランキングでも上位に顔をのぞかせる。

 男性は藤沢駅から江の島などを結ぶ私鉄の沿線に住んでいた。ガラス窓には養生テープが張られ、屋根も崩れかけようとしている男性の自宅の周辺を訪ねると、走る電車が指呼の距離に見え、レールがきしむ音が聞こえた。

 市南部の高級住宅街に転居してきて20年ほどという50代女性は言う。

「市南部のうち、地名に植物や花の名前がつく地域は戦前からの高級住宅街です。ただ、男性の自宅は藤沢駅前の繁華街的な部分と、高級住宅街的な部分が交わる地域。男性の自宅周辺はアジア系の外国の方も住んでおり、ちょっと歩いただけで不動産価格は変わります。外から来た人と地元の人が交わる本当に絶妙な場所。だから、『紛れる』ことができたのではないでしょうか」

 いわゆる「湘南」の中央に位置するとはいえ、鉄道3路線が通る藤沢駅。その南口の繁華街では2015年3月に発砲事件が発生し、暴力団関係者が逮捕されている。そんな雑多な繁華街と高級住宅街の〝エアポケット〟のような場所で、男性は数十年生活してきた。

 一方、男性は藤沢駅周辺のバーなどに通い、ライブなど音楽を楽しんでいたことも報じられている。アマチュアでバンドなど音楽活動をする市南部在住の60代男性はこう語る。

「知り合いの音楽仲間は『うっちー』(男性の愛称)と20年来の付き合いで、ライブのたびに見に来てもらっていたそうです。でも、『桐島』とは全く思わなかった。私自身もどこかで会っていたのかもしれません」

 今年、50歳になる筆者も学生と社会人の10年間を除き、藤沢で生活してきた。一連の報道で登場する藤沢駅北口の銭湯は、幼い頃に通った銭湯だ。筆者もおそらく気づかず、街のどこかですれ違っていただろう。

 2月初旬、男性の自宅の敷地内には白い梅が見ごろを迎えていた。周辺の住宅の梅も相まって「東風(こち)吹かば......」とばかりに梅の香がおこっていた。同2日時点で「桐島容疑者」とは確定していないが、男性は毎春、この梅の香をどんな思いで匂っていたのだろうか。

(飯山太郎)

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